第12話 「彼女は彼の為に嘘をつく」

「それはちょっと厳し過ぎるんじゃないか?」

「そんな目に遭ったら誰だって仕返しすると思うぞ!」

鬼ちゃんの話を聞いた悪霊の介ちゃんはこぼれた涙を拭こうともせずに興奮しながら言った。


「そなたが同情してくれるのは嬉しいが罪は罪でオレが殺した男たちにも家族があったかも知れないのだ」

「理由はどうであれ、復讐は新たなる復讐を生み出すだけで際限の無い無限ループだ!」


「だからオレは自らの命を絶った・・・」

「オレで終わりにしたいと思ったのもあるし、家族を全て失ったオレに生きる意味など無かったからだ」

鬼ちゃんはそう言ったが男たちに対する憎しみは今も消えてはいないように思えた。


「そう言えばさっきから気になってるんだがお前の着ている服が胸まですっぽりと隠れているのはどうしてなんだ?」

「それに胸がちょっと膨らんでるように見えるんだけどなぁ」


今朝、どこかに出掛けて帰って来た時に服装が変わったのに気づいていたのだが気分を変えてやろうと思い茶化した。


「な、何をジロジロ見てるんだよ!」

「絶対に触らせないぞ」

恥ずかしそうに隠す鬼ちゃんに

「いや、触りたいと思いながら見てたんじゃないよ」

そう否定すると

「何だ、そなたはオレに興味が無かったのか・・・」


ちょっとガッカリしたような口調で言うと

「そなたが本来の人間に姿が近づいて行くようにオレも犯した罪に見合う罰とか功績を重ねるごとに生きていた頃の姿へと少しづつ戻って行くんだがオレはまだ申請してないから試しに着ている服だけ変えてみたんだ!」

とても嬉しそうな顔をしながら説明した。


「そうなのか!?」

「だからお前の顔まで何だか優しそうな表情に見えたんだ」

「もしかしたらお前の本当の姿を俺も見られるかもな?」


彼がそう言うと

「オレはこの世界で千年近くも償って来てるんだぞ!」

「本当はこんな鬼の姿じゃなく本当のオレを見て欲しかったがやがて人間になってしまうそなたに見せることは無理だよ」

彼女は思わず本心を漏らしながら俯いてしまった。


「念の為に聞くけどその罪が許されたらお前はまた、人間へと戻ることが出来るってことなのか?」


心配しながら聞いた彼に

「バカだなぁ、オレの身体はもうどこにも無いんだぞ」

「そんなオレは人間に戻れないから今の役目から解放されることもなく、いつまで続くかわからない無限の時を過ごすことになるかな」

「でも殴られたり、蹴られたり、怒鳴られたりはしなくていいから辛い思いをしなくていい分だけきっと楽だよ」

敢えて彼女は気楽に話した。


「じゃあ、その永遠ってのをお前は誰と過ごすんだ?」

「この世界に迷い込んだ誰かと友達になれたりするのか?」


彼が質問すると

「質問は一つだけにしてくれって言ったよな!?」

「そなたとは少しでも多くの会話を楽しみたいんだ・・・」

「まとめて話すとそれだけ話題が減ってしまうじゃないか!」

「そなたにオレの気持ちなんてわからないよ」


そう言って怒り出した彼女に

「わかるよ!」

「十分、わかってるから心配してるんじゃないか!」

「バカはお前の方だろ!?」

「人間の俺と違ってこの世界の俺はたとえ鬼の姿であろうともお前のことを愛しているから全部、わかるんだよ!」

彼は激しい口調で怒鳴り返した。


「な、何をそなたは言ってるんだ?」

「永遠だぞ、永遠って意味がそなたにはわかってるのか!?」


彼女は口ではそう言ったが心の中ではこの男がそういう男であることを知り過ぎるほどに知っていた!


知っているからこそ、溢れ出ようとする涙を必死で堪えた

そして彼女は彼に嘘をついた・・・


彼を自分に課せられた運命に巻き込むのが怖かったのだ!

「オレはそなたと永遠になんて付き合いたくないよ」

そう告げると彼に背中を向けた・・・

どうしても涙を堪えることが出来なくなったからである。


「俺は人間に戻ることを辞められるのか?」

彼が彼女の背中に問い掛けると

「辞めることはすぐに出来るが二度とそんな機会は来ないぞ」

「そなたまでオレに付き合って孤独になる必要は無い」


「オレは人殺しだ!」

「悪いがそなたの望むような可愛い女じゃないんだよ」


彼女はそう答えると振り返り

「さあ、夜が明ける前にさっさと帰ろうぜ」

そう言って右手を彼に差し出すと無理して笑ってみせた。

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