第11話 「それでも罪は罪なのだ」

悪霊である介ちゃんの胸でひとしきり泣いた後、こぼれた涙を拭いながら鬼ちゃんは自分が犯した罪について語り始めた。


平安時代末期のことである


大軍を擁する平氏を破った源(木曾)義仲が大挙して京都に入り、毎年の飢饉と平氏の狼藉によって荒廃した都の治安を回復しようと大軍を駐屯させた為に一段と治安を悪化させたばかりか、食糧不足にまで及んだ!


庶民の飢えと苦しみは絶望的なほどまでに追い込まれ、少しばかりの食い物を求めて人を殺して奪ったり草や虫まで喰らうという地獄さながらと化していた。


鬼ちゃんの家は下級の貴族だったのだが貴族とは名ばかりで奉公人を雇う金銭も無く、家屋の所々は腐り、雨漏れするも修理さえ出来ずに荒れ放題になっていた。


勿論、着替える服も無くて色鮮やかな布で開いた穴を繕った


一見すると派手に見える服やどこからか貰って来たサイズなどまるで合わない古着を一枚羽織っているだけであるが、歳も近かった姉妹は洗う度に交換しながら着ていた。


優しい父と母、仲の良い姉妹に囲まれ幸せな暮らしだった!

そう、あの闇夜の中で乱入者に襲われるまでは・・・。


月が夜空に見える夜は格子から差し込む光で過ごすのだが、その夜は分厚い雲が月を覆い真っ暗となった部屋の中で姉妹3人は小さな声でお喋りをしていた。


その時であった、戸板が蹴破られる激しい音がしたかと思うと何人かの足音が乱入する物音がした!


食い物か金になる物をよこせと怒鳴る声とここには何も無いと言い返した父の声が聴こえたが、一瞬の間を置いて父の名を叫ぶように呼ぶ母の声と微かな父の呻き声・・・


そして父を呼び続ける母が侵入者によって乱暴されながらも必死で抗う声は断末魔で終わり、暫しの静寂が訪れた。


極度の緊張と恐怖に怯えながらも漆喰の闇の中で逃げ道を探す3人の娘たちだったが襖を倒してしまい、物音がしたのを侵入者たちに気づかれてしまった!


他にも誰か居るとわかると、方々に分かれ激しい物音を立てながら屋敷を探し始める松明の炎が怪しげに舞う。


慌ててその場から移動した3人は、いつの間にか離れ離れになっていたが逃げるのに懸命で誰がどこに居るのかもわからず名前を呼ぶことも出来ない状況下に置かれていた。


やがて誰かを発見したと伝える声と女の子の叫ぶような泣き声が響き渡り、数人が群がり着物を引き裂く音に混じって嫌がりながら許しを乞う妹の悲痛な声が聴こえるがその声は段々と小さくなり消えてしまう・・・

自分の力の無さをこれほど悔いたことは無かった。


その後、見つかった姉も妹と同じく数人の男たちによって凌辱され死しても尚、その辱めは延々と続いた・・・


松明の灯りによって映し出された姉の顔は辱めを受けながら死んでも辛そうな表情で動き、彼女に復讐を訴えていた!


「1・・・2・・・3・・・4・・・4人か」

「お前たちの顔と姿はこの胸に刻み込んだぞ」

「オレが必ずこの手で殺し、地獄へと送ってやる!」

心の中で固く誓いながら彼女はその唇を血が滴り落ちるほど強く噛み締め、睨みつけていた!


分厚い雲の隙間から満月の光が差し込む頃、侵入者たちはようやく満足した顔で屋敷を去って行った。


彼女は素早く隠れながら移動し、彼らの後をつけると民家の中へ入るのを確かめて家へと引き返した


床下へと潜り込み、小さな釘で留めてあった刀の入った錦の袋を引き剥がすとその中から刀を取り出し外に出た。


鞘から刀を抜き出し月夜に照らして確認すると鞘を帯に差し、両手で刀を持ち、何度か振ってみた


いつも可愛がってくれていた平氏の武士がくれた刀と彼から教えてもらった剣術である!

その彼も先の戦で源氏と勇猛に戦った末に討ち死にした。


生き残ろうなどとは全く考えてはいなかったが、あの4人は必ずこの手で殺さなければならない・・・

灯りを持ち、自分たちの部屋へ行くと箪笥を動かして奥から弓と矢を取り、弦を張って結わえると5本ばかりの矢を掴んで腰の帯に差し、奴らが居る民家へと走り、一本の矢をつがえ出て来いと大声で怒鳴った。


女の声に何事かと油断して出て来た奴らに続けて矢をつがえながら見事に命中させると弓を捨て刀を貫き、鞘を放り投げて突進した彼女は一人を袈裟懸けに切るともう一人の腹部に深々と突き刺し、足で蹴りながら引き抜く!


続いて出て来た2人も丸腰で彼女の刀の餌食となり、深手を負って倒れたそれぞれに留めの刀を突き刺した。


死んだ男たちの顔を何度も何度も突き刺した彼女は家に戻り家族に報告すると丁寧に弔った

その後、自らの首を貫いた彼女は涙を流しながら自らが流す大量の血を浴びながら息絶えた。


たとえ恨みを晴らす為でも罪は罪、彼女が最後に流した涙は人の命を奪った後悔の涙だったのかも知れない。

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