第10話 「近づく別れに募る想い」

夏海は恭介のことを両親に包み隠さず話していたようで彼が彼女の家に行き、挨拶を終えて結婚の許しを申し出ると逆に彼女のことを頼むと懇願された。


故郷から訪れた恭介の両親を交え、前祝いが催され大いに盛り上がり式の日取りや仲人と次々に決まって行く!

まさに順風満帆とはこのことであろう。


一応、その場には悪霊の介ちゃんと鬼ちゃんも参加してたのだが、恭ちゃん以外に2人が見える人間など誰も居ない。


2人の姿も今ではハッキリと見えるし青白く死人みたいだった顔も血色を帯びて来た為か、それほど不気味ではない。


それだけ人間である恭ちゃんと悪霊の介ちゃんが融合して、一体となる日もそう遠くないということだ!


その分、悪霊だけが持つ能力、ストーカーに一撃を浴びせ殴り倒してしまったり、逃れようと宙を彷徨う魂を地獄の底へ叩き落としたような力も段々と失われるが本人にそんな自覚が無いのでわからないまま、次第に弱まって来ていた。


そんな深夜のことである


最近、常習化している深夜の空中散歩の途中で立ち寄った公園のベンチに座りながら

「なあ、そなたはオレのことをどう思ってるんだ?」

鬼ちゃんが悪霊の介ちゃんに尋ねると

「どう思ってるって可愛い奴だと思ってるぞ」

即答であった。


「可愛いってのにも色々とあるだろう?」

「オレはこんな姿をしているし、そなたに可愛いと褒められても漠然過ぎて素直に喜べないんだよなぁ・・・」


鬼ちゃんが両足をぶらぶらさせながら不満そうに言うと

「そうなのか!?」

「そういうことなら詳しく説明しながら教えてやろう!」

「最初に言うがお前の顔や姿は可愛くないぞ」

「だが俺が思うにお前も最初っからそんな鬼の姿で生まれて来たわけじゃないだろ?」

「生きてる時に何かとんでもない悪さをして閻魔さんからお前はその醜い姿で罪を償えとか、言われたんじゃないか?」

介ちゃんの言ってることがズバリ当たっていたので驚いた。


「お前にはその身体の中に優しい心がある!」

「それにこんな俺にもお前はよく懐いてくれてるからな」

「心の中が美しい奴はその姿も次第に美しく見えて来るんだ」

「前にも言ったがお前のそういう所が可愛いんだよ」


彼にそう言われ鬼ちゃんはモジモジしながら

「そんな言葉で優しくするのをオレの世界では悪って言うんだ」

「そなたはなかなか悪霊に向いてるかも知れないな?」

照れ臭そうに言った。


「へぇー、そうなのか?」

「人間の世界だとそれを愛って言うんだぞ」

彼がそう教えると鬼ちゃんは

「アイ・・・アイっていうのかぁ・・・」


小さな声でそう呟いてみて

「この言葉っていいな、何だか胸が熱くなって来るぞ!」

とても気に入ったようで嬉しそうに彼を見て微笑んだ。


そんな鬼ちゃんを見ながら悪霊の彼は、どこから現れて俺の所へ来たのかわからないがこんなに素直になってこの世界でこの先、やっていけるのだろうかと心配になった。


「なぁ、お前は俺がこの世界から消えたらどうなるんだ?」


彼が何気なく問い掛けると

「そんなこと決まってるじゃないか」

「オレの罪が許される日が来るまでこの世界のどこかで悪霊のお世話に回されるだけだよ」

鬼ちゃんはそう答えると

「でも悪霊ってのは恨みを持ってる奴ばっかりでそなたのように明るくて楽しそうな奴なんて初めてだったよ!」


「そなたの前に仕えた奴なんてオレに名前をつけて喰ってやると口癖みたいに連発するし、オレの顔を見ると叩いたり蹴ったりしてたから傷が絶えなかったなぁ・・・」

「まぁ、それでもオレは罪を償ってる身だから傷だらけになるとそれだけ罪が消えて行くわけなんだが、そんなオレにだって心はちゃんとあるんだよ」


そう言いながら無理に笑顔を作ろうとしたが真剣な目で見る彼の顔をみつめた鬼ちゃんはその笑顔さえも作れず、遂には堪え切れずに泣き出してしまった。


「そうか・・・それがお前の償うっていう試練なんだな?」

彼は泣いた鬼ちゃんを抱き締めながらそう言った。


彼女の頭にはまだ2センチほどの小さい角が残っていて黒髪の間から突き出ている・・・


手入れもされず汚れた髪に先端が丸まった短い角・・・

鬼ちゃんはこの角が消えないと罪が消えないのだと彼に教えたことがあるが、彼はその角を短くなれ、消えて無くなれと優しく撫でながら心の中で祈り続けるのだった。

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