第8話 「プロポーズの言葉は?」
祖母が居なくなって寂しくなっていたこの部屋も悪霊と餓鬼の新たな住人、2人が加わり賑やかになった。
血まみれでまだ顔が青白い悪霊の介ちゃんだが若干、姿がぼやけて見える為に慣れてしまえばそれほど怖くはない。
でも急に声を掛けられたりして心の準備も無いまま目にすると思わずドキッとする!
お互いにそこら辺は注意しながら接しているようだった。
次の日、会社から戻って来た3人は人間の恭ちゃんの恋人である夏海に電話をかけ週末に会う約束を交わした。
離れられない事情はあるのだろうが恭ちゃんの近くにはいつも介ちゃんと鬼ちゃんが寄り添っているので他の人間には彼らが見えないとはいえ、仕事中もハラハラである!
「そんなに怒ることは無いだろうがっ!?」
「あの野郎、ちょっと生意気だから呪い殺してやろうか?」
上司に注意された時など介ちゃんがそう言うのだが、悪霊と知ってるだけに本当に呪い殺してしまいそうな気がして上司に同情してみたりと見ていて飽きないので楽しかった。
そしていよいよ夏海と約束した日が来た!
朝から落ち着かない俺を見ながら鬼ちゃんと2人で楽しそうに話してた悪霊の介ちゃんが
「そんなに緊張してたら彼女にプロポーズ出来なくなるぞ」
「もう少し落ち着いたらどうなんだ」
まるで他人事のように言う彼に
「俺の失敗はそのまま介ちゃんの失敗になるんだぞ!?」
「ちゃんと2人分の心配をしてるから緊張してるんじゃないか」
俺はもっともらしいことを言ったが、単純に断られるのが怖いだけで未だに言わない方がいいんじゃないかと迷っていた。
「ところでプロポーズの言葉ってもう決めたのか?」
何気なく訊いた介ちゃんに
「えっ、俺と結婚してくれじゃダメなのか?」
俺は普通に頼もうと思っていたのでそう答えた。
「シンプルなのもいいけど俺としちゃロマンを感じないなあ」
「そんな簡単にお願いされたんじゃ断っちゃおうかな?」
介ちゃんはそう言って笑ったが確かに簡単じゃ真剣に考えていないと思われるかも知れない!?
不安になった俺は
「どう言えば夏海に真剣だと思われるかな?」
「お前の隣りに居る鬼ちゃんにいいアイディアが無いか訊いてみてくれないか!?」
藁をも掴む思いで介ちゃんに頼んだ。
「なぁ鬼ちゃん、俺と結婚してくれないか?」
悪霊の介ちゃんは隣りに向き直ると突然、そう言った・・・
しばらく無言が続いたが
「今、訊いてみたけど何だかモジモジして嬉しそうだったぞ」
「シンプルでも意外と行けるんじゃないか?」
介ちゃんはそう言ったが、俺の質問の意味を間違えて隣りの鬼ちゃんに訊いちゃったのか!?
多分、そうじゃないだろう・・・
バカと言うより悪霊と呼ぶに相応しい奴かも知れない!?
介ちゃんを通していずれは鬼ちゃんの姿も声も届くようになるらしいが一体、この2人はどんな関係なんだ?
俺は介ちゃんと融合することに一抹の不安を感じた。
良くも悪くも俺たち3人は一緒に夏海との待ち合わせ場所に向かうことになった。
彼女には家からタクシーに乗り、店の前まで来るように言ってあったので俺たちは随分と早い時間から店の前で待つことにしたのだが独りで待ってるわけでは無いので退屈はしない。
気のせいなのか姿は全く、見えないが鬼ちゃんの声が聞こえるような感じがする・・・
人通りが多いので通り掛かった誰かの話し声かも知れない?
だが、しばらく集中しながら聴いていると
確かに介ちゃんの声に応える少しトーンの髙い声がわかるようになった!
「聴こえた!」
「さっきまで気のせいかと思ってたけど鬼ちゃんの声が聴こえるようになったみたいだ」
ちょっと興奮したので普通に喋ってしまい、俺の近くを歩いてた人たちが話し掛けられたと思ってこちらに振り返った。
「そうか、もうオレの声が聴こえるようになったのか」
「霊感が強いだけあって意外と早く聴こえるようになったな?」
鬼ちゃんは俺が想像していた話し方とはかなり違ってたがやっとお互いの意思が通じ合えるのは嬉しかった!
「ここは人通りが多くて話してると変に思われるから家に帰ってから話すことにします」
「今日はこれから頑張るので宜しくお願いしますね」
上着で口元を隠しながら小さな声で俺が言うと
「任せとけ!」
介ちゃんと鬼ちゃんが元気な声で同時に答える。
自分の声が届くことを喜ぶ鬼ちゃんの興奮した声が続いてる間に夏海を乗せたタクシーが店の前に止まった。
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