第7話 「お互いの得になる話」

「だ、誰だっ!?」

リアル過ぎるその声に仰天しながら叫ぶと

「まぁ落ち着け、お前には俺の姿がぼんやりと見えるはずだ」

その声がした方に目を凝らしてみると薄く色褪せたポスターを見てるような感じで笑ってる表情が辛うじて判別出来た。


「確かに誰か居るのは見えるし笑ってるようにも見えるが?」

俺がそう答えるとその声の主は

「そうだ、確かに俺は笑ってるよ」

「俺の姿がお前に判別出来たことが嬉しいし、俺の喋る声がお前の耳に届いたことが嬉しいからだ」

「質問に答えるのが遅れたが俺はお前が死んで悪霊になった姿で俺とお前は住む世界が異なるが同一人物ってことだ」


俺が死んで悪霊になった?


俺はこうして生きているから声の主が言ってることの意味がよくわからなかったがこれが夢では無いことは理解出来た。


「俺が死んで悪霊になるとはどういう意味なんだ?」

多分、こいつは今まで俺が感じていた気配の正体だと思った俺は理由が知りたくなり質問した。


「先日、ストーカーにお前が襲われただろう?」

「あの時、俺があの犯人を殺して地獄へと送ってやったんだが本当はどうやらあのストーカーにお前は殺されて恨みを抱き、悪霊になるはずだったらしい」

「ところがその悪霊になった俺が少しばかり早く、この世に送り込まれてしまった為に俺が奴を殺し、お前は無事だった」

そこまで話した声の主はソファーに腰掛けると話しを続ける。


「それが起きたことによって俺でもあるお前は長生き出来るしこの霊界に俺は存在する必要が無くなったわけだ」

「俺は人間に近くなるほどお前にだけ、ハッキリと見えるようになって来るし話せるようにもなるらしい」


「いずれはお前と融合し消えことで今、話してる会話の記憶もこれから俺と関わる全ての記憶も消えてしまう・・・」

「そこで俺はこの際だからお前に力を貸してやろうと思った」

「お前を助けるってことは自らの未来を明るくすることだろ?」

「要するにお互いが得をするってことだ!」


俺も死んで悪霊になればあんな風になれるのだろうか?

声の主の話は堂々としていて自信に満ち溢れていた。


こんな法螺話を簡単に信じてしまうほど俺はバカでは無い!

それは話してる相手が人間ならば・・・である。


俺の前でソファーに腰掛けているのは明らかに人間とは違う他の何かで声の主が言った悪霊で間違いないだろう。


「今の説明で大まかな経緯はわかったけど俺の目の前に居る君が俺と同じ存在だと、どう信じればいいんだ?」

「何か俺だけしか知らない秘密を君は知っているのか?」

信じてはいるが念の為に尋ねてみると

「残念ながら俺は悪霊になった時点で全ての記憶を失くした」

「お前の傍で目覚めてからのことしか知らないんだ・・・」

記憶が残っていないことを悲しそうに答えた。


「わかった」

「俺が君の立場だったら必ずそう答えるだろうから信じるよ!」

「俺と君の名前は久保恭介(クボ キョウスケ)」

「年齢は28歳で独身、君も知ってるみたいだけどプロポーズしたい大切な恋人が居るけど勇気が無い小心者だ」


「恋人の名前は牧野夏海(マキノ ナツミ)」

「年齢は25歳、付き合い始めてもう5年になるんだけど関係というかそれらしいことは何もして無いんだ」

「だからいきなり結婚だなんて無理なのかなと思って・・・」


俺は自分の情けなさをもう一人の自分に暴露しているような気がして最後まで言えずに口を濁した。


「俺がこんなこと言うのも変だがそんなに自分を恥じる必要は無いと思うんだけどなぁ?」

「愛情は儀式みたいな行為で示すんじゃなくてあの日、お前が見せたような自分を犠牲にしてでも守りたいという強い想いで示されるものじゃないかと思うぞ」

「その想いはきっと彼女にも届いてるんじゃないかな」


「これからも一緒に居て守り続けたい意思を伝えれば彼女はお前の申し出を受けてくれるさ!」

声の主はそう言って励ますと思い出したように続けた。


「ところでお前と俺、自分が同時に2人居ると呼び方を決めて置かないと何だかややこしいよなぁ・・・」

「人間であるお前が基本だから名前を分割してお前が恭ちゃん、今はまだ悪霊の俺が介ちゃんでいいんじゃないか?」


最後は笑いを堪えながら名前を分けた介ちゃんは

「それともう一人、恭ちゃんには見えないだろうけど俺の隣りに座ってるこの娘を鬼ちゃんと呼ぶことにしよう」

そう言ってから遂には堪えきれず大笑いした介ちゃんだったが隣りに座る鬼ちゃんは何だか嬉しそうに微笑んでいた。

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