第4話 「人間に戻れるまで宜しく!」

包丁を頭上に振りかざして俺を突き刺そうとしたストーカーを殴ろうと身構えた瞬間、奴は何かに突き飛ばされたように倒れ自らが手にした凶器で自分自身の胸を刺し貫いた。


誰かの通報で数名の警察官が駆け付けた時、犯人はすでに息絶えていて俺は命を懸けて彼女を救った男となっていた!


「ありがとう、助けてくれて本当にありがとう・・・」

大粒の涙をポロポロと零しながらお礼の言葉を繰り返している彼女を俺が強く抱き締めて愛してると心から告げた。


彼女は俺の胸の中で何度も頷き、愛してると言ってくれた。


実際は何がどうなったのか?

俺にはさっぱりわからなかったが結果的に彼女が無事だったことが何よりも俺には嬉しかった。


自分の命よりも彼女は俺にとって大切な人なのだ!


現場を目撃した人々の証言によると凶器を持ち、殺そうとした犯人を俺が殴り倒した拍子に自らの凶器で死んだ・・・


俺と彼女も詳しい事情を訊かれたがストーカー被害にあった彼女が警察に相談に行こうとした際に起こったことで犯人の名前さえ知らず、接点がどこにあったのかもわからない?


俺は恐怖で動けなくなった彼女を助けようと無我夢中で何も憶えていないし相手が凶器を持っていたことから、この事件はどうやら正当防衛ということで済むことになりそうだ。


一応、更なる事情を聴取したい警察は保護する目的を兼ね、俺と彼女はパトカーに乗り警察署に向かうことになった。


その時、ふと見たショーウィンドーにあのゾンビみたいな男と身長は低いが恐ろし気な鬼が映っていたのだ!


俺はガラスを指差しながら何か言おうとして咄嗟に止めた・・・

頭が変だと疑われると思ったからである。


一方、悪霊となってしまった俺は警察から事情聴取されてる人間の俺を横目で見ながら餓鬼と言った鬼と今後についてどうするのかを話し合っていた。


鬼はパンツの中から携帯電話みたいな物を取り出すと誰かと話し始めたが言葉がわからない?


電話を切り、パンツの中に入れた鬼に

「一体、誰とそんなに話していたんだ?」

俺が尋ねてみると

「気になったのはそっちの方だったのか!?」

「オレはこの万能パンツを気にしてるのかと思ったよ」

「話してたのは人間界でいう乙姫様みたいなものでそなたの命の変更手続きを申請していたんだ」


「本当はさっきのストーカーに殺されたそなたが悪霊になって恨みを抱えながら彷徨うはずだったんだがそなた自身が奴を地獄へと突き落としてしまったから長生きすることになった」


「人間になってしまえば今の記憶も全部、消えるからオレが今、教えてやってることも忘れてしまうんだけどな」

「まぁ、幸せな人生を末永く送ってくれ!」

鬼は恐ろしい顔を少し歪めながらにっこりと笑ったみたいだ。


「お前が前置きしたから聞くけどそのパンツの中はどんな風になっているんだ?」

俺がそう尋ねると案の定、即座に

「この中はオレの倉庫みたいな場所に繋がってて取り出したい物を思い浮かべるだけで掴める便利グッズなんだ!」

「最近、やっと手に入れたレア物のパンツなんだぜ」

結局、俺に自慢したかっただけで鬼は喜々として答えた。


「俺が人間に戻るってことはそこで警官と話してる人間の俺と合体するというか、融合するってことなんだろうが今の記憶が無くなればお前のことも忘れるし見えなくなるってことかぁ」


俺が何気なく、そう呟くと

「オ、オレはそんなことには慣れてるから大丈夫だがそなたのようにオレのことを言ってくれたのは初めてだった・・・」

「オレは友達を大事にするからそなたもオレのことを喰らおうと思わんでくれるか?」


どうやら鬼は俺が奴を喰らうつもりでいると勘違いしてるようで両手を合わせて頼みながら友達であることを強調した。


「あの2人がパトカーに乗せられ連れて行かれるぞ!」


2人の様子を見ていた俺が鬼に教えると

「それじゃあ、そなたとオレも一緒に乗って行こうか」


そう言った鬼は俺の手を掴んで一瞬でパトカーの車内に乗り込むと後部座席で寄り添って座る2人の隣りに俺を座らせて自分は俺の膝の上に腰掛けた。


「忘れないうちに言いますが、そなたが人間に近くなるほどに人間であるそなたに悪霊のそなたの姿が段々、見えるようになるし話せるようにもなりますから胸に留め置いて下さい」


鬼はいとも簡単にそう説明したが人間である俺に悪霊の俺が見えて声まで聴こえたら、まるでホラー映画じゃないか!?


俺は隣りで彼女と幸せに浸ってる自分に同情した。

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