【怪異屋・共】那月 湊都 編
神に愛された者
怪異。
それは人を脅かす、もしくは人を助ける、人間でも動物でもない[何か]。
怪異屋。
怪異を倒す者達の総称。
霞ヶ関0番地に存在する怪異屋協会に所属する国家公務員である。
怪異屋協会。
国家公安委員会の特別の機関、有り得ないはずの行政機関。
これはその、人を脅かす怪異の根絶を目指す怪異屋達の物語。
Ⅰ.
某日の午前9時頃。
怪異屋協会の本部で、大人数の怪異屋が歩いていた。
怪異対策部の怪異屋共課が毎週月曜日の朝行う定例会議から課の部屋に戻ってきているのだ。
その中で1人、
万年トレンチコートを着た女性であり、トレンチコートの人=那月湊都である。
彼女は『怪異対策部 怪異屋共課』とプレートが貼られた部屋に入っていく。
そして自身のデスクに向かう──と、そこには山伏の格好をし、顔に烏のようなくちばしがある仮面を付けた[烏天狗]という怪異が座っていた。
烏天狗は湊都とペアを組んでいる怪異であり、高尾山山頂で封印されていたところを発見された。
「烏天狗、仕事。
怪異絡みの事件が1件担当になったから行こうか」
「ん、行くとするかの。
本当にこの仕事は外回りが多いのぉ」
よ、としゃがれた声を上げて立ち上がる。
一本下駄を履いているため湊都より少し背が高くなるものの、本来は湊都より少し背が低く平安時代から生きるという怪異だ。
「しょーがない、根本の原因を叩かないと人に害をなす怪異ってのは次々湧くからねぇ。
というか情報共有が面倒だから烏天狗も会議に出てほしいんだけど……」
「ああいう人やら怪異やらが沢山いる空間、わしには合わんわ。
もう少し何とかならんのか」
湊都はハァ、とため息をつき、2人は部屋から出る。
しばらく行き先を確認したり雑談したりしながら本部を出ると、怪異屋共課の課長である
「那月。
今日の現場は俺も着いていく」
「浅木課長?
課長が着いてきてくれるのは心強いですけど──」
取り敢えず車に、と言われ湊都と烏天狗は後部座席に乗る。
助手席には既に浅木のペア相手である狐憑きの少女、
「那月と烏天狗……今日はよろしく」
狐憑き、といえば精神疾患の一種と捉えられているが、桐子は本物の狐憑きである。
桐子と憑いている狐は今のところ共存しており今は落ち着いているようだが、いつまた錯乱状態になるかは分からない。
「桐子ちゃんよろしくね~。
ところで課長、現場はFile No.1369、XX町1丁目XXXマンションに在住の『神に愛された者』ですが。
確か私と烏天狗だけが現場に向うとなっていたと思います」
車を走らせる浅木にそう聞くと、そうだな、と話し始めた。
「怪異調査隊が調べた限りだと、どうも滅に任せるには滅の力では大きすぎる。
アイツらは真っ先に対象を殺すことが最優先だからな。
とはいえ、共が1組行ったぐらいでは手に負えんだろう──と怪異対策部長の判断だ」
なるほどなるほど、と相槌を打つ彼女はチラ、と隣を見る。
信頼されていないと思われている──などと思っていないだろうか、と少し心配になったからだ。
「確かに、神に愛されし者となれば我らだけでは心もとなかろう。
わしとて『本当に』神に愛された者と出会ったことなどないからな」
目を瞑り、軽く頭に手を添えた烏天狗からは面倒な事件だ、とでも言うように気怠い雰囲気を出す。
「お狐様も……神が一個人を愛することは滅多にないって言ってるよ。
世界中探しても今まで10人もいないって…………」
おもむろに桐子もそう言う。
桐子に憑いてるお狐様というのは、神の遣いたる狐の中では位が高く、あらゆる神から情報を貰っている。
桐子とお狐様は通常の精神状態では普通に会話ができるため、怪異屋に協力するように要請したのだ。
「ま、そういうことよ。
それが神レベルになると難易度は高い。
俺らが何か言ってどうにかなるかどうかが問題だな。
封印はもってのほか。
ま、危うくなったら滅に連絡するしかねぇな」
そも神に対抗しようとすることすら危うい。
殺戮を目的とする滅では神の怒りを買ってしまう。
であれば共に任せた方が良く、何かしら問題があれば滅に事件を回した方が良い。
下手に敵に回すと厄介な相手であろう。
そうこうしている内に、協会本部から車で出発して10分程経過したところである。
その『神に愛された者』が住んでいるであろう一軒家の前に到着した。
玄関の前に1人の女性が立っていた。
神に愛された者の母親だよ、浅木が言う。
門の扉を開ける母親に一礼した浅木はゆっくりと敷地内に車を停める。
「さ、これから神とご対面だ。
気を付けて行くぞ」
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