第9話 騙し合い
放課後、私は入部届けを持って体育館裏の演劇部と書かれた扉の前にたっていた。
ドアノブに手を置きゆっくりと回して扉を開く。
「待ってたわよ。」
初めて見た時のような少し含みを持った笑みを向けて扉を正面に椅子に座っていた香織さんは私を中に誘い適当に座るように言った。
「じゃあ早速、あなたを説得しにはいるけどいいかしら?」
「その前に、その演技、やめてもらっていいですか?」
「えー、私、この役気に入ってるんだけどなぁ。」
「あと、私は今日は、これ、出すために来ました。」
私は記入済みの入部届けを香織さんに見せた。
「え、じゃあ私は説得しなくてもいいの?」
「いえ、これは、あなたが本当のことを言ったら出そうと思ってます。これは取引というわけです。」
「本当のこと?」
「香織さんって本当は10年前に亡くなったと言われてた、売れっ子子役の清水
私は香織さんの目を真っ直ぐ見つめてそう言うと、香織さんは大きく笑った。
「あははははは!!あの昔人気だった子役の清水 香織?そんなわけないじゃない!面白いこと言うのね。」
「あなたの演技を見てわかっちゃったんですよね。この間の短い劇の中で、私がまたまた目を奪われてしまったのに気づいたから、あなたは今度は私が気づくように、あの時と同じ笑い方をした。そして、知ってるんですよね?私の事。」
「あなたが何を言っているか私には分からないわ。」
「そうですか。じゃあこの紙は…要らないってことでいいんですね。」
私はそう言いながら、香織さんの目の前で入部届けを破り捨てた。
「あら、残念。」
「冷静ですね。それとも、それも演技ですかね?」
「あなたが何を勘違いしているかは知らないけど、入る気がないなら、私はあなたを説得するまでよ。」
「あなたはどうしても私に演じて欲しい。あの時みたいに。だから必ず私の取引に応じると思ってますよ。」
「…、はぁ、わかったわ。で、何を知りたいの?あ、答えるのは2つまでよ。これ以上は受け付けないから。慎重に質問する事ね。」
「分かりました。では1つ目。なぜあなたは、いえ、あなた達は死んだことになってるんですか?」
「知ってたのね。あなたの考えてる通り、私には双子の姉がいた。私たちは双子というのを隠して交代で舞台に立っていた。ある日姉が誘拐事件に合いそのまま死んだの。役者としての姉はね。もちろん、今では私たちは元気に過ごせてる。だけど、姉は役者を降り残った私だけでは、私には無い姉の能力を演じることが出来なかった。だから死んだことにして2人とも役者を降りたってわけ。」
「そして、その時出演する事になっていた舞台であなた達の代役として私が出された。なるほど。納得ですね。」
「まさかとは思ったけど、あの時のあなたの演技は私たちでも目を奪われるくらいだった。」
「では2つ目。本当の目的は何ですか?まさか、ただの青春がどうのこうのという訳で私を勧誘したい訳では無いでしょうし、どうしても私を舞台に立たせたい理由があるんですよね?」
「そうね。強いて言うなら、私は負けず嫌いだから。かな。」
「…は?」
「姉は今は普通に高校に通ってる。別の高校に。そこで姉は役者としてまた舞台に立っている。姉には負けられないから、私も去年から舞台に立ち始めたけど、やっぱり姉の方が才能あるみたいで、去年は惨敗よ。びっくりしたわ。同じ顔であんなことができるなんて。だから、勝ちたくてね。あの時私達がライバルとして認めたあなたを見てどうしても役者になって欲しくて。」
「…それだけですか?」
「質問は2個まで、これで私の回答は終わりよ。もちろん入ってくれるのよね?私たちの代役の水野
「はぁ、分かりましたよ。私も手伝います。けど、私はあなたと違ってあれ以来、役者としては一切活動してないので。」
「嘘つきね。お昼も演技していたくせに。」
「なんの事ですかね。」
私は笑ってカバンの中からもう1枚の記入済みの入部届けを香織さんに渡した。
「ほら、ついさっきのも演技ってことじゃない。」
「バレてるなら演技できたとは言えませんよ。」
私達は6月の発表会に向けて少し話してから解散した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます