第6話 このままで
寮に戻ってから私は本を取りだしベッドに投げつけた。
誰とも関わらないようにするためにカモフラージュとして常に持っている本。
「七瀬 香織さん…どこかで聞いた事が…、そういえば経験者って言ってたな。」
私は記憶をたどって彼女の名前をあ必死に探したが思い出せずモヤモヤして結局ネットで調べてみた。
だか、七瀬香織という役者はいるものの彼女に当てはまる人物はいなかった。
「気のせいかな。」
私はそのまま部屋に着いているシャワーるーに向かった。
出ていく時に彼女が言った言葉がずっと引っかかっていた。
「役者に向いてたら、こんなことにはなってないんだよ。」
私がもし演じるのが上手い役者だったならば、家族みんなを欺けただろう。
騙せていただろう。
そしたらこんなに悪くはなっていなかったかもしれない。
家を出る際、父から言われた一言。
『お前が将来何をしようが俺たちは知らん。だが、兄妹たちに迷惑をかけるような事だけはしてくれるなよ。お前と違ってあの子たちは未来があるからな。』
そして掴まされるように渡された分厚い茶封筒。
中に見えたのはお金だった。
それだけ言って父は家の中に戻って行った。
中からは両親が兄妹たちの名前を呼ぶ声が聞こえた。
あの時の虚しさは今でも忘れられない。
「私、名前を呼ばれた記憶が無い。」
シャワーを頭から浴びながら、嫌いなはずの家族のことを考えてしまう。
「あの子、どうしてるかな…。」
中学の時仲が良かったあの子は、私のせいで辛い目にあった。
友達が欲しいと思った私のためにあの子の未来を奪ってしまった。
過去の辛い記憶がどんどん出てきては溢れる。
「隣のお兄さんも、元気かな。」
小さい頃から内緒で遊んでくれていた隣のお兄さんは、私のせいで引っ越さざるを得なくなった。
私も高校生活には憧れていた。
でも、私のせいで誰かが辛い思いをしてしまうならと、考えて1人を選ぶしか無かった。
「私は、何がしたいんだろう。」
何をしたいかなんてもうどうでもいい。この際、後先は考えられない。親に捨てられた今、人間関係を持てない今、平凡に生きる今が一番いいのだ。
「ずっとこのままでいたい。」
何も考えず、誰にも見下されず、誰とも関わらず。
このまま、未来なんて来なければいいのだ。
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