40
僕は、ひかりのなかにあった。
そしてそれ以外はなにもない場所だった。だけど、不思議と心地よかった。
「少年、終わったんだな、すべて」ひとりの少女が僕の前に佇んでいた。その表情は、海が凪いでいるように穏やかだ。
僕はこの少女を知っている。
「見ろよ、少年。壮観だろ、この眺め」
少女が空を振り仰いだのにつられて、僕もその視線の先を追う。
天使だった。無数の天使が空を泳いでいる。それを見ながら僕は言う。
「終わってなんかないさ、これから始まるんだよ、僕たちの旅は」
「くくっ、そーかもな。煩わしい人間関係とか先行きの見えない将来への不安、ってやつとかな」
少女の言葉に僕は笑う。
「そーだよ、面倒で退屈な日々がさ。だけど、お前がいればそんな日々も少しは楽しくなるかもしれないぜ?」
そーかもな、と少女は哀しそうに笑った。それがひどくその少女に似合ってないような気がしたけれど、僕はそれに対してなにも言わなかった。
「なんにしても、ごくろーさん、少年。この世界すべての生からの救済をしてくれたんだからよ」
少女の言葉に僕は首を傾げた。ジョークにしては大層な言葉だ。僕が世界を、なんだって? 少女はそんな僕を無視して言う。
「まっ、いいさ。そろそろ動き出す頃だな。行こうぜ、少年」少女は僕に向かって、手を差しのべてきた。
そこで、僕の意識は遠のく。
「お兄ちゃん、起きなよ。遅刻しちゃうよ」ありすの言葉に僕は飛び起きた。今日は月曜日だ。
「お兄ちゃん、なんで泣いてんの?」ありすは不思議そうに僕の顔を覗き込む。そこで初めて自分が涙を流していることに気づいた。
「好きな人に振られた、とか?」ありすは、ひひひ、と笑う。そのありすの表情を不思議な気持ちで見つめる。デジャビュってやつか。
身支度を整え、僕とありすは学校に向かう。
今日は天気がよくて、雲ひとつない。そんな空を見上げていると、ひとりの天使が横切ったような気がしたけれど、鳥かなにかだろう。
そして、僕は呟いた。
「またな、レベッカ」
死と再生のシムカ 椎名まじめ @sheena175
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