33
「ここは……?」僕は気づくと、草原で寝そべっていた。辺りには建物も人影もなく、地平線が広がるばかりだ。僕は立ち上がり、ただその草原のなかで呆然と立ち尽くした。
と、そんな僕に後ろから声がかけられた。それは馴染み深いようでいて、どこかに忘れてきたような声色。そう、それは……。
「ありす、か?」
振り返ると、そこには今や懐かしいと思えるような双眸のありすがいた。
「お兄ちゃん、今まで何処にいたのよ。私、此処でずっとひとりで、すごく、すごく寂しかったんだから」ありすは濡れた瞳でそんなことを言う。
「ごめんな、ありす。でも僕もお前に会いたかったんだ。だけど……」
あれ?僕は、今まで何処にいて、なにをしていたんだ?記憶が、曖昧、だ。
「此処にはなにもないんだよ、お兄ちゃん。お父さんもお母さんも、友達も、私の好きな本も映画も、なにも、なにもないんだよ」
僕は、辺りを見渡した。前も後ろも、なにもなく、ただ地平線まで草原が広がっているだけだ。
僕は大切ななにかを見落としているような気がする。
そりゃ、ありすは大切な家族だ、妹だ。
でも、なにかが欠落しているような気がしてならない。
そんなことを僕がぼんやりと考えていると、なにもなかった前方に廃ビルがいきなり現れた。そのビルに僕は見覚えがあったが、脳のどこかに霧がかかったようにうまく思い出すことができない。
「帰ろうよ、私たちのいた世界に。うまく言えないけど、此処はなにか嫌な感じがするんだ。見たくもない、私の心のなかにいるような感じがして……」
そんなとき、風が吹いた。強い、風が。
僕はその風に身体を飛ばされた。飛ばされていくなか、ありすがこちらに向かってなにか叫んでいるのが見えた。しかし、風の音にその声は掻き消されて、僕の場所まで届かない。
「ありす!」僕はありすに向かって手を伸ばしたが、その手はなにも掴むことができない。
そして僕の意識は、ゆっくりと暗闇に落ちていった。
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