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今はまだ、組織を裏切るという行為が明るみにはなっていないが、それが露呈するのも時間の問題だろう。

僕たち三人の住み処は組織の目が届かない場所にしようというのは、自然の成り行きといえた。そして、取り敢えずは、この廃ビルを次なる住み処にしようということになった。


「これくらいでいいかな」

僕とレベッカは、シムカの息がかかったマンション、その一室で荷物をまとめていた。

もちろん、ロンギヌスの槍もだ。この神聖なる神殺しの神器がもたらしたものは、黒崎に対する最終兵器、というだけでなく、あの名無しのムーくんの僕に対する態度が軟化した要因にもなっていた。しかし、うまく扱えるか否かは定かでなく、そんなムーくんの態度が逆にプレッシャーになっているのも事実であった。


廃ビルは、電気も水道もガスも通っていない正に廃ビルといったものだったが、街の中心街に位置していて、近くにはコンビニ、銭湯、アミューズメントパーク、図書館、等々を利用できる立地にあり、快適とは到底言えないものの、生活していくだけなら、問題はなさそうだ。


廃ビル生活から三日が過ぎた。

レベッカは、ソファー代わりにしているであろう段ボールの上で横になって、スマホで動画を観ていた。……馴染んでいるなあ。

もともとの行動の指針であるところの黒崎の居場所は今をもって特定できていない。しかし、レベッカもムーくんも、それに対して焦る様子もなく、それぞれに寛いでいる。組織から追われている境遇を思えば、そんな二人に苛立ちを覚えても仕方のないというものだ。

そんな僕の心中を知ってかしらずか、レベッカが声をかけてきた。

「黒崎は、何処にでもいてどこにもいない存在なのさ。人の心の闇に潜む、それこそ死神という一個の存在さ」なんて禅問答みたいなことを言う。「だから、そう苛々すんなって少年」

そんな僕の様子を見てムーくんが補足する(ほんと、最初会ったときの態度と今とでは雲泥の差である)。

「黒崎はこれからも殺しを行うだろう。その被害者たちには申し訳ないが、それには目を瞑るしかない。しかし早かれ遅かれ、黒崎は向こうからぼくたちに接触してくる。それは断言できる。今までがそうだったからね。歴史は繰り返すんだよ」

前世からの因縁ってわけか。だから、周防との遭遇はイレギュラーではなく、その前兆だったのだろう。僕はそう得心した。

と、廃ビルの天井から、ぱらぱらと破片が落ちてきた。そこで気づく。地面が揺れているということに。

「でかいぞ、伏せろ!」レベッカが叫ぶ声が聞こえたときには、その揺れは僕たちを呑み込んでいた。




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