30
横峰クリニックを飛び出してから、僕は根本的な問題に思い至る。ムーくんの居場所に心当たりがないという決定的な事実に。
「…………っ」
ここで僕の取りうる選択肢はひとつしかなかった。
「レベッカ、ムーくんが殺されるかもしれない!」電話越しに僕は叫んだ。その通話相手であるレベッカは、飄々とした口調で答える。
『笑えねージョークってのは少年の嫌うところじゃなかったのかよ。殺しても死なないムーの野郎が、だって?』
そこで僕は、落ち着きを取り戻すため、ひとつ深呼吸をして、レベッカに事の重大さ、抜き差しならぬ状況を説明した。
『昭和チルドレン狩り、ね。くくっ、人生ってのは、望む方向にはなかなか行かせてくれねーな。黒崎の魂を消す前に、まずはムーを保護しねーといけねーってわけだな。まったく、ややこしくなってきやがったぜ』レベッカは電話越しで不敵に笑うのだった。
それから一週間が過ぎても、ムーくんの所在が明らかになることはなかった。
まさか殺された、ってわけじゃないよな、と信じたいが、現にムーくん以外のメンバーは殺されてるわけだから、それを否定できるだけの根拠がないのも事実だった。
昭和チルドレン殺害事件は、シムカ機関によって揉み消され、表沙汰にはなっていない。にもかかわらず、街では六人の子供の死体が発見されていた。
そこにどんな因果関係があるのかは、僕にわかるはずもなかったが、どうにもきな臭い感が否めない。
発端は、あのワーグナーというアメリカ捜査官だ。ネットではワーグナーの自作自演なんて記事もあるが、それも定かではない。
わからないことが多すぎる。これはよくない兆候だ。
そして、現実はそこから更に逸脱していくことになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます