22
玄関ホールを奥に進むと、エレベーターが見えてくる。僕たちはそのエレベーターに揃って乗り込む。目指す最上階に今回のターゲットの金城外周の部屋があるはずだ。
僕は上がっていく階層表示パネルを静かに見ていた。緊張は、ない。それは今までの経験則があるからだ。レベッカは言わずもがな、といったところか。
しばらくの浮遊感を感じ、チン、という音とともにエレベーターの扉が開く。
その瞬間、寒気がした。
それは皮肉にも今までの経験から来るものだった。
これは……これは黒崎、か?
「どうした少年、顔色が悪いぜ?」
レベッカはクールな表情を崩さない。まるでこの先の展開を読んでいるかのように。
僕の足は震えていた。いや、身体のすべてが、か。
しかし、レベッカは澄ました顔で金城がいる部屋の扉を蹴破った。そして、迷いのない足取りで部屋内へ入っていく。僕も震える足を引き摺りながらもそれに続いた。
予感はあった。
そしてそれは間違いではなかった。
中の様子、いや惨状といったほうが適切だろう。
赤。
床が、壁が、天井が、赤に染まっていた。血だ。
そして、部屋の中心には死体があった。
しかしその死体には首がない。正確を期すなら、首も腕も足もない。文字通り、飛び散っていた。バラバラ、だ。
だが、注目すべきなのはそのバラバラ死体ではない。
女だ。赤に染まった部屋の中心にひとりの女が立っていた。
その女は、全身白のスーツを着ている。赤い部屋の中にその白いスーツはよく映える。
手には、一振りの日本刀を提げていた。あれで金城?を斬ったと妙に冷めた頭で理解する。しかし、奇妙なのはスーツが白いという点だ。返り血が、ない。この惨状で有り得るのか?いや、有り得るのだろう。
そんな僕の動揺を無視するかのように女は、こちらを見ていた。その眼にはなにも映ってはいないような、そんな気配があった。
「周防」
レベッカは、眉ひとつ動かさず、そう呟いた。
周防?それって、なんのことだ、という僕の疑問にレベッカは、奴の名前だよ、と素っ気なく当たり前のことのように言うのだった。
この女が黒崎じゃないのか?
その女、周防が口唇を小さく動かす。「初めまして、お嬢さん、お兄さん」
「けっ、見た目はお嬢ちゃんだけどよ……って、わかってて言ってんだよな、周防」既にレベッカは臨戦態勢だ。
そこで、ふふっ、と女、周防は笑った。
「斬ってあげる。その魂までをね、レベッカ」
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