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あれからレベッカの口から、黒崎という名前を聞くことはなかった。

僕に気兼ねしてなのかどうなのか、いや実際そうなのだろう。僕が取り乱したのを受けての、それはレベッカなりの優しさだった。

しかし、運命の歯車はそんなこととは関係なく動き始めてしまっていることを僕はもちろん把握しきれていない。


スナフキンさんの運転で今回のターゲットがいる場所へと僕とレベッカは向かっていた。

「少年、銃の扱いに慣れてきたじゃねーか。対象を向こう側に送るのにも躊躇いや躊躇がない。まあ、少年らしいといえば少年らしいがな。くくっ」

「最近、精神のタガが外れちまってさ。殺しにも慣れてしまったってのが現状さ。いや、生からの救済、ってやつに、かな」

そこでスナフキンさんが話に割り込んできた。

「行成くんもすっかりこっち側の人種になってしまったな。もし生からの救済が終わったとしてさ、もう戻れないかもしれないぜ、普通の生活ってやつに」

スナフキンさんは、警告しているのだ。ここから先に進めば、すべてを失うかもしれないということを。過去から続く明日ってやつに。

だけど、僕には未練も執着もない。

ここが僕の居場所だ。と、確かな実感が心にある。


「着いたぜ」スナフキンさんはそう言って、車を停める。

そこは真新しいビルだった。上を見上げてもその高さを測るのも難しいくらいの威容だ。

「入り口の電子ロックは外してある。ターゲットがいる部屋は、さっき言った通り最上階だ。最上階には一部屋しかないってのもさっき言った通りだ」スナフキンさんは淡々と言う。

金城外周。どんな仕事をしているのかは知らないけれど、かなりの資産家という話だ。しかし、そのお金の出どころは、クリーンとは言えないものらしい。

そこが組織シムカが乗り出す動機だった。


そして、運命というものがあるとしたら、それはなんと残酷なものなのだろうか。

このときの僕には知り得ぬものであるのは確かだし、それを受け入れるかそうじゃないかは、ここでは問題ではない。

真に大切なのは、誰もが運命からは逃れることができないということをこれから思い知ることになるということだ。


僕とレベッカは、ビルの玄関ホールへ足を踏み入れた。

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