19

僕がシムカにあてがわられているマンションに帰ると、ソファーに見知らぬ少年が座っていた。そいつは、少年と呼ぶのに相応しい、小さな、まだ中学生にも満たない容姿をしていた。

「おい、レベッカ、子供なんか連れ込んで、なんのつもりだよ?」と僕は、キッチンでコーヒーを飲みながら佇んでいるレベッカに向かって言った。

「へー、あんたがレベッカの相棒の雨宮行成くんかい?」とその少年は僕に振り向いて言う。声は子供の、声変わりもしていないそれだが、言い方は大人、いや老獪と言った方が適切なものだった。

僕がどう言ったものかと思案していると、その子供は、座った状態からバク転をして僕の後方に回り、どこから出したのか、ナイフを僕の首に突きつけた。

「はい、一回死んだ」少年は、淡々と言う。僕は、身動ぎひとつできなかった。

そんな僕を無視して、その少年はナイフを上着の内ポケットのホルダーに仕舞って、レベッカに声を掛けた。

「期待外れだよ、レベッカ。これがお前の相棒だなんてさ」

レベッカは、それを聞いて、口唇に笑みを浮かべる。

「まあそう言うなよ、ムー。こいつはこいつで背負っているものがあるんだからよ」と少しピントのずれたことを言う。

ムー?

「レベッカ、この子供が……」

「そう、昭和チルドレンのリーダー、名無しのムーだよ」レベッカは、コーヒーが入ったカップをテーブルに置いて、紹介してくれた。

「見た目だけで判断していると、物事の本質を見失うよ、おにーさん。そこのレベッカも然りさ。まあ、こんなこと言う以前の問題って感じだけれどね」ムーくんは、苦笑する。「おにーさん、これは遊びじゃない。やるかやられるか、殺すか殺されるかっていうのがぼくたちの住んでいる世界なんだよ。ただまあ、レベッカの宿主である妹さんのストッパーってことだから、シムカから抜けろとは言わない。だけどな、物知り顔でぼくたちに関わるんじゃねー。お前みたいなやつが一番ムカつくんだよ」

僕は、言い返すこともできなかった。シムカに属しているからって、胡座をかいていたことは否めない。呑気に生の救済だなんて言ってたことが恥ずかしくて堪らなかった。

そこでレベッカは、言った。「ムー、お前が言ってることは正しい。どこまでもな。だけどよ、さっきも言ったけど、この少年も背負っているものがある。過去にも今にも、な」

「まあいいさ。このおにーさんがぼくたちの邪魔だけはしないでいてくれたら、それだけでいいんだからさ」そう言って、ムーくんは玄関に向かう。その背中に向かって、レベッカは言葉を掛けた。「子供をあんま苛めんなよ」

「苛められる方にも責任はあるんだよ」その言葉を残して、ムーくんは部屋を辞した。

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