18

事が終わって、僕と横峰先生は、お互いに裸でベッドに寝転びながら、雑談に洒落込むことになった。

「雨宮くん、人が人を殺すときの動機ってのは何だと思う?」

物騒な話題だけれど、こちら側の人種にとっては世間話みたいなものだ。

そして僕はそれに答える。

「私怨、地位、名誉、権力、そしてマネー」僕の答えに横峰先生は、上出来ね、と微笑む。

「だけれど、例外ってのはどんなジャンルにもひとつやふたつあるものよ」と前置きし、「それがシムカや黒崎、どちらにも共通しているのが……」

「魂、ってわけですか」ビンゴ、と横峰先生はウインクしてみせた。


殺人を犯すのは、一見、日常とはかけ離れているように見えるが、殺意を持ったことがないような清廉潔白、聖人君子みたいな人間は、驚くほど少ないのが現状で、それを実行するかしないかだけの違いだ。

他人を出し抜きたい、他人より上に立ちたい、みたいな思考の延長線上に悪意や殺意が位置している。

それを害悪と決めつけることは容易だし、共感なんてもっての他だ、とは些か詭弁めいていると言えるのではないか。

少なくとも、僕はそう思う。

それは、シムカに属してからそう思ったわけではなく、それ以前から心の底に沈澱していた。

そして、レベッカの仕事、いや使命か?に付き合うようになってから、その思いはより強くなっていった。

僕は正しい場所にいる、と言い訳したいだけなのかもしれないが、思いと行動が一致しないというのが人間ってやつだ、とこれまた言い訳染みたことを思ってしまうところが、僕らしい。


「雨宮くん、コーヒーでも入れるわ」の声に僕は、

「気持ちだけもらっておきますよ、横峰先生。僕はそろそろ失礼することにします」と服を着ながら、言った。

「雨宮くんの期待に応えられなくて、残念だったわ」まるで皮肉めいたことを言う。やりたいことをやったら、さよならしちゃうのね、と言外に告げるように。

僕はそれに気づいていないように努めながら、「また情報が入ったら、連絡してください、横峰先生」と踵を返した。

そんな僕に、「ひとつ忠告しておくわ、雨宮くん」なんですか?と冷静な声音で僕が言うと、

「私の名前は、ナオミって言うの」と答えた。

僕は背中でそれを聞いて、それじゃあ、また、ナオミ先生、と振り返らずに外に出た。またね、雨宮くん、と聞こえたことに安堵しながら。





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