17

今日、僕とレベッカは、ひとときの休息をシムカから与えられていた。

僕には行くべき場所があったので、レベッカに断りを入れて、マンションを後にした。


街の路地裏に僕は足を踏み入れた。そこは閑散としており、人の気配は皆無だ。

しばらく歩いて、普通の人は気づくことがないような奥まった場所にある階段を上がった。その先には、扉があり、かすれた文字で『横峰クリニック』と書かれてある。表向きは、心療内科だが、此処には訳ありの患者が担ぎ込まれることで有名だ。

そして、この心療内科の先生もシムカ機関の構成員で、情報屋も兼ねていた。


「やあ、雨宮くん。久し振りだねー」と診察室の椅子に座ったまま、横峰先生は、微笑を口元に湛えて言った。この人も組織に属しながら、コードネームというものがない。「愚痴を言わせてもらうとさ、今朝も入り口に死体が投げ出されていてさ、もう闇医者扱いだよ」と真っ赤な唇を噛んだ。

話がはやい。「その死体の死因は口外できないものなんですよね?」と確信をつく。

「これを見てみるかい?」と横峰先生は、僕の言葉を聞いてから、一枚のディスクを机の引き出しから取り出した。僕が黒崎の居場所の手掛かりになるものを探していると、事前に横峰先生に伝えてあったからだ。


そして、画面に映る光景を僕は食い入るように見つめた。

そこはホテルの一室で、男と女が裸で抱き合っているところだった。そこだけ観れば、ただのエロ動画だ。

しかし、男は、絶頂を迎えた女の首をその両手で締め上げていた。しばらくそうして、がくり、と女が頭を垂れると男は、その女の腹をナイフで裂いて、内臓からなにかを求めるように手を突っ込んで掻き回した。しばらくして、男は女に興味を失ったように、服を着て、画面から消えた。

これは黒崎のやり方ではないな、と根拠はないけれど、直感した。どうやら当てが外れてしまったらしい。

「しかし、この男の動機ってなんなんですかね、横峰先生」と僕は聞いた。

「この男は、人間の魂が何処にあるのかを探しているように見える。私の個人的な見解だけれどね」

魂、ね。

「それにしても、この街はどうしちゃったんですかね。こうもサイコ野郎が同時に蔓延っているのは、そういう時代、って言葉で片付けられない。なにかが起こる前兆なのかもって邪推しちゃいますよ、僕は」

そこで、横峰先生は、ふふっ、と妖艶に微笑んだ。「この街はね、私や雨宮くんが生まれる前から、もう狂っているんだよ。もしかしたら、私たちもその例に漏れず、なのかもしれないわよ」

確かに僕は、もう普通の一般人からは解離してしまっている。生と死の世界にどっぷりと浸かっているわけだから。

僕は、果たして人間なのか?と疑念が浮かぶ。

「まあ雨宮くんは、最初から徹頭徹尾そんな感じだったから、驚きもしないけれどね」

「言いますね。でもまあ確かに僕は、心とか感情ってのが欠落してることは認めますよ」

「でも、人間には本能ってものがある」と横峰先生は言い切る。「性欲もそのひとつなんじゃないの?」と言って、横峰先生は椅子から立ち上がり、僕を抱きしめて、唇を重ねてきた。

僕は、それに抗うことはせず、白衣の上から、胸を揉んだ。

そして、診察室のベッドに倒れ込み、強引に横峰先生の白衣を脱がした。

「今日の雨宮くんは、強引ね。濡れてきちゃった」

それから僕は、ゆっくりと横峰先生のなかに入っていった。


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