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僕とレベッカは、高層マンションの上階にある自室のダイニングで朝食を食べていた。ブレックファーストである。

一応断っておくが、僕もレベッカも調理スキルは皆無だ。これはこのマンションに常駐しているシェフによるものなのである。

「お前、やっぱりありすじゃないんだよなー」僕は料理を頬張るレベッカを見ながらそう言った。

「なんだよ、少年、やぶから棒に」レベッカは怪訝な表情である。

「いや、そうやって、美味しそうに料理を食べてるところは、まるでありすみたいだな、ってさ」

「三大欲求みたいな原始的なところは、どいつもこいつも変わんねーって話なんじゃねーか?まあ、今更って話だけどよ、少年」レベッカはそう言って食事に戻る。


今日は仕事の予定が入っている。昨夜話していた悪徳政治家の生からの、いや罪か?の救済だ。

僕とレベッカは、スーツに身を包みエレベーターで階下へと降り、マンションの外に出た。

「おはよう。昨夜はよく眠れたかな、お二人さん」マンションの外で停まっている黒塗りの車に背中を預けながら声を掛けてきたのは、ひとりの綺麗なお姉さんだった。長い髪を下ろし、まるでモデルのような佇まいである。

「今日はよろしくお願いします、ジョリーンさん」僕はぺこりと頭を下げる。「親しき仲にも礼儀あり、とは言うけれど、そんなに畏まらなくてもいいよ、雨宮くん。お互い短い付き合いでもないしさ」とジョリーンさんは微笑する。


「片桐は敵が多いから警備が硬いので有名だけど、アポは取ってあるんだよな、ジョリーン」僕の隣の後部座席に座るレベッカは運転席に向かって言う。

「なんでもアリのあんたならなんとかなりそうだけれど、ね。シムカの力は政界にも及んでいるから心配することはないよ。十全な体制が取れてるさ」とジョリーンさん。「それはそうと、さっき知ったんだけど、この街で『黒崎』が動いているらしい」

その言葉にレベッカはピキッと硬直した。

黒崎?初めて聞く名前だ。

「その様子だと雨宮くんはレベッカから聞いてないみたいだね、黒崎のこと」とルームミラー越しにこちらを見るジョリーンさん。「死神、と組織では呼ばれている、ただただ死をもたらすだけの存在。私や雨宮くんが生まれる前から組織と対立している一族さ。そこにいるレベッカには馴染みもなじみ、幼馴染みみたいなものらしいけどね」とミラー越しにウインクをするジョリーンさん。

「…………」その名前を聞いてレベッカは黙り込んでいる。

不思議な緊張感が漂う僕たち三人が乗った車は、それでも目的地である片桐政治のもとへと走り続けるのだった。

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