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僕が引き戸を引くと、カラカラカラと音をたてて、開け放たれた。鍵はかかっていない。僕とレベッカは、土足で屋内に入り込む。
「さーて、少年。浮かばれない魂の救済といこうぜ」とレベッカは笑う。「それにしても、なんだな。此処には人が住んでいたような匂いがしないぜ」
レベッカの言葉に僕も頷く。窓は割れて辺りに散乱し、埃が宙を舞っている。一番手前の畳の部屋を覗いても、なんにもない。ちゃぶ台も箪笥さえも。
「いかにもって感じだな」僕は言う。「救われない死者の魂がいる場所ってのにはあまりにもうってつけだ」
僕とレベッカは、手前の部屋から順番に確認していく。三つめの部屋を覗き終わり、廊下の奥へと足を向けると、僕がかけているビジョンシステムが反応を示した。ビンゴ。レベッカを見ると、既に臨戦態勢に入っている。
ちなみに、僕はビジョンシステムがないと死者の魂はその目に映らないけれど、レベッカには裸眼でそれを認識することができる。まあ、これも今更って感じでいちいち驚いたりはしない。
魂の救済とは、対象をあちら側に送ること。死をもって再生へと至る道。この三年で嫌というほど経験してきたことだった。
四つめの部屋の真ん中にそれはいた。
軍服を着て、肩からライフルを掲げている。今回の相手は、歴史の教科書に載っているような軍人のそれだった。大戦の最中にいた存在。
そいつは、何事か喚いた。しかし、言葉の体を為していない。僕はビジョンシステムの言語域のレベルを上げる。
「……うああ、うあ」軍人は呻く。「敵が来た。敵だ、敵だ、敵だ!」
そう言って、軍人は肩にかけたライフルに手を伸ばす。
レベッカは、シニカルな表情を崩さず、スーツの内ポケットからリボルバーのピストルを取り出し構えた。
「少年、交渉は出来そうか?」僕は首を横に振る。軍人は、明らかに錯綜している。会話なんて出来そうもない。
「仕方ねー、野蛮な方法で送ってやるとするかね。向こう側へ」レベッカの口が歪む。
そして部屋の中央で銃声が一発鳴った。
レベッカの打った弾丸は軍人の左胸を撃ち抜いた。
このピストルの弾丸は、特別製で魂に届く。撃たれた軍人の動きが止まる。そして、眩い光が軍人を貫いた。
天使。
軍人はそう呼ばれるものへと変化した。
魂の救済と呼ばれるものだ。
数秒後、部屋には、軍人の痕跡は消え、僕とレベッカだけが残っていた。
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