僕が自宅を飛び出してから三年という年月が経っていた。それは、シムカに所属している期間を示している。


車のカーステレオからは音楽が流れていた。それはクラシックで、旋律は、なるほど聴いたことがある曲だったけれど、作曲家も曲名も忘却の彼方だ。

僕とレベッカは、車の後部座席に隣り合わせで座っていた。

「よう、レベッカ。今日の任務は、死者の救済ってことだから、ビジョンシステムがいるんだよな。寄越せよ」

「元気がいいな、少年。やる気があることはいいことだ。お前のそういうところ、嫌いじゃないぜ」と、レベッカはビジョンシステムを僕に差し出した。


ビジョンシステム。

見た目は普通の眼鏡だが、こいつをかけると、現実と常世の狭間の臨海点を結びつけることができる。

有り体に言えば、死者の魂が見えるようになるってわけだ。


「スナフキンさん。今回も僕とレベッカに任務は一任されているんですか?」

車内の運転席でハンドルを握っているスナフキンさんは、前方を向きながら答える。

「行成くんもシムカに入ってもう三年だからな。わざわざ俺が出張る必要もあるまいぜ。なあ、レベッカ」スナフキンさんは、レベッカに話を振った。

「まだまだ半人前だけどよ、まあ最初の頃と比べたら俺のパートナーとしてよくやってくれてるほうなんじゃねーの」くくっ。


スナフキンというのは組織内でのコードネームだ。本名は知らないし、知る必要もない。僕は、みんなから雨宮とか行成と呼ばれているけれど、本名を口外するのは珍しいらしい。かといって、コードネームは何にする?と言われてもそれも今更って感じだ。僕は、テレビゲームの主人公にもなんの躊躇もなく、本名をつける。それと同じだ。

そうこうしているうちに、車は郊外の寂れた場所に入っていた。

「此処らはなんもねーな。自然保護団体にでも保護されてるのかね」と、レベッカが嘲笑する。

それから車内はしばらく沈黙が支配した。僕はぼーっと後ろに流れていく景色を見るともなく見ていた。

「着いたぜ、行成くん、レベッカ」スナフキンさんはそう言って、車を停めた。

「ここ、ですか?」

僕たちの前には、古ぼけた日本家屋の一軒家が建っていた。いかにも、って感じだ。

「じゃあ、後は頼んだぜ、お二方。せいぜい殺されないようにな」と、スナフキンさんは嘯く。

「けっ、死ぬのは向こうだっつーの。って、もう死んでるんだっけか」

そして僕とレベッカは、スナフキンさんをひとり車に残して、古ぼけた一軒家の戸に手を伸ばした。

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