「なあ少年。まずは俺が所属している組織に顔合わせに行かねーか?」とレベッカは言った。

組織。シムカ、だっけ?

「僕は人殺し集団の温床に行くくらいなら、自ら進んで死ぬことを選ぶね」

「言ってくれるねー。だが、簡単に死ぬとか言うのはあまり褒められたもんじゃねーな」とレベッカは自虐的に笑う。「さっきも言ったけどよ、俺の、シムカの使命は生きることからの救済なんだよ。一般市民の少年にはわからねーのも無理はないけどよ」くくっ。

「お前が弁の立つ奴だってのはわかったよ。でもお前、本当は人なんか殺したことなんかないんじゃないか?僕は実の妹を失った。そんな意気消沈な僕をまずはお前は救済しなきゃならないんじゃないか?死をもって」

「鋭いね。だが、少年の大切な妹君の人格は失われたわけじゃない。今は眠っているだけだ」ここでね、とレベッカはこめかみを人差し指でとんとん、と叩く。

「脅しかよ」僕の言葉に「取り引きさ」とレベッカは笑う。

「世界の救われない生の救済が終わったら、少年の妹君は返す。そして、俺はお役ごめんでさよならさ。神に誓ってな。神は神でも死神だけどな」くくっ。

「オーケイ。わかったよ、わかった。まずは組織に行けばいいんだな。毒を食らわば皿まで、だ。お前の言うとおりにしようじゃないか。ただ今更って感じだけれど、僕が組織に行くことに意味なんかあるのか?」

「あるさ」即答するレベッカ。「さっきも言ったけどよ、少年の妹君の人格は失われてはいない。だから、だよ」

どういうことだ?

「少年が側にいないと、妹君の人格は耐えられない。それこそ喪失する。人を殺すっていうのは、それだけ精神に多大なる負荷をかけることになるんだからよ」

僕にはもう選択肢は残されていないようだ。


長い家出になりそうだ。親にはどう言えばいいのだろう。

「記憶の改竄なんて簡単だぜ。少年が関わったすべての人間から少年がいたっていう記憶を消すなんて造作もないぜ」

そんなこともできるのか。最早なんでもありだな。もし、敵に回したらと思うとぞっとしない話だ。

なにはともあれ、乗りかかった船だ。最後まで見届けようじゃないか。

たとえそれが泥船だったとしても、だ。




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