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メモリースティックの件は、ありすにまるっと任せて、僕は自室にいた。
テレビをつけると、雑音みたいなお笑い芸人のさして面白味もない会話が繰り広げられている。
僕の聴覚は、興味を示さないものはすべて雑音に聴こえてしまうのだ。
音楽だって、そう。この前、友達のおすすめの曲を試しに聴いてみたのだが、頭痛と眩暈を引き起こした。まるで二日酔いになったような感じ(アルコールは嗜んだことはないが。未成年だし)。
その点、読書はいい。どんな駄作でも活字になると、頭痛も眩暈もしない。
ああ、なんか僕病んでんのかな、なんて思っちゃったり。
そうこうしているうちに、夕飯の時間になった。階下からお母さんの呼ぶ声がする。
今日の晩御飯は、親子丼だった。僕とありすの大好物だ。湯気が上がってなんとも食欲をそそられる香りがする。
しかし、僕は親子丼を目の前にしても箸をつけない。夕飯は、家族全員が揃わないと食べてはいけないという暗黙のルールが雨宮家にあった。
お父さんとお母さんが食卓に揃っているのだけれど、ありすがまだ部屋から出てきていない。
三度の飯より飯が好きなありすにしては珍しいが、どうやらメモリースティックの解読に勤しんでいるご様子。
お父さんとお母さんには先にご飯食べてて、と告げ、僕は階段を一段飛ばしで駆け上がり、ありすの部屋に向かった。
「おーい、ありす。ちょっと休憩しようぜ」と部屋のドアを開けた。
すると、絨毯の上で寝ているありすがいた。やれやれ。ひとつのことに没頭すると、脳内を限界にまで酷使するのがありすなのである。
そのありすの頬をぺちぺちと叩く。やがてその目がうっすらと開いた。
「ありす、ご飯食べようぜ」と僕が言うと、ありすは、
「ようやく外に出れたぜ。くくっ」とシニカルな笑みを浮かべた。
「はいはい。ご飯にしましょーねー、ありすちゃん」と僕はこいつの冗談に取り合わない。だから、面白くない冗談は雑音にしか聞こえないんだってば。
「初めましてだな、少年。俺の名前はレベッカ。死の象徴さ」
これが僕とレベッカの出会いだった。
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