2.オフィシャル・ブートレグ
思ったより。
思っていたより、自分は善人だと気付かされるようなことがある。こんな風に自分は規範から外れている、こんな自分はちょっと悪い奴だ、なんていう、効果の薄い思い込みの皮をすっと剥がされ、お前だって結局はその他大勢、凡人の一人なんだよと言い聞かせられたような。
ライブハウスの照明が落ち、オーネット・コールマン&パット・メセニーの「ザ・グッド・ライフ」が流れるのが合図。
ドラマーの
最後に、たっぷりと勿体付けて今晩の主役である
その様子をわたしは袖から見ている。
フォギー・デュー&ロールバック・インターセクション。
今最も人気の、チケットが取りづらい、などということはないものの、地方でもそこそこのキャパを埋められるぐらいには流行っているバンドだ。どちらかというと海外での公演が多く、日本で聴いているとセンスが良い、と言われるような、そういうタイプのロック。ベースが居ないことが特徴であり、同様の編成からジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンなどが引き合いに出されたりもするが、ガレージロックにしてはメロディアスであり、世界的に見てユニークなその音楽性はインディ・オルタナティヴといった曖昧なジャンルで評されることが多い。
カウントなしで無藤が歌い始める。持って生まれたのは天性の喉だろうか。違う気がする。もっと、体中を音楽が支配しているみたいな、存在自体が音楽で出来ているような、魂が音楽の色をしているような、そういう人間。
そんな無藤に、かつてのわたしは憧れた。
客席の最前列、無藤を陶然と見つめる姿がある。十年前、まだバンドがここまで大きくなる前にわたしがそうだったように、少女は、唯一の救いをステージに見ていた。
わたしは彼女を地獄に落としてしまった。
彼女、
無藤はロックスターなのかもしれないが、いや、そうなんだろうが、人としては最低だ。いかにも古風な芸術家のステレオタイプといった感の、セックス・ドラッグ・ロックンロール&ヴァイオレンスな女。
ではなぜ、そんな最低の人間とわかっていて無藤に少女を引き合わせたのか。昔のわたしみたいで目障りだった、のかもしれない。けれど、それは副次的なものというか、もしそうだったとしても無意識下のものだ。
わたしは、無籐を破滅させたかった。
もうひとつ枕詞を付け加えるならば『一刻も早く』ということになるだろうか。黙っていても破滅するであろう人間を少しでも加速させ、自分がやったと思いたいのだ。
わたしは金網を利用した。無籐を一秒でも早く破滅させられるなら、死ぬより酷い目に遭わせられるならどんなものでも誰だって利用してやろうと思っていた。
思っていた。
過去形なのだ。わたしは悪人にはなれない。きっと無籐のように無邪気に人を殴ることもできず、思い詰めてもきっと刃物は握れない。
思ったより、わたしは善人なのだ。いや、善人ではないのかもしれない。暴力に臆病なただの人。
フォギー・デューの、無藤のマネジメントに関わってからそろそろ十年。芸能界、それも音楽の畑にいれば黒い話は噂ではなく目の前に転がってくる。そういったものを知らんふりして蹴飛ばしながら日常を過ごせる、仕事が出来る人間として、そこそこ汚れてきたつもりだった。
「カタちゃんはさ」
いつか、事務所で甘い香りがするタバコ状のものを吸いながら、無藤が言った。
「顔だけはいいよね」
まあ、無藤が言うから、わたしは顔がいいのだろう。そんなことを気にするような人生を送ってこなかったため、おそらく一番大事と思われる時期に、美人であるというアドバンテージを得ずに暮らしてきたらしい。
どんな原石だって磨いてみなければ原石のままなのだ。
わたしは女学生だった。人並みに、女学生だった。あまり明るくなく、文学と音楽に救いを求めては、ぬるい癒やしを得て日々を過ごしていた。
それでいいと思っていた。無籐に出会うまでは。
ロック・スターなど遙か遠く、フォギー・デューが冴えないままくすぶっていた頃。それでも無籐という存在は誰よりも異彩と存在感を放っていて、どうして世の中はこんな人間を放っておくのだろう、と思うような、そんな。
感動だったのだろうと思う。あの瞬間だけは、純粋だった。
しかし同時に、わたしを人並みでなくしたのもまたあの瞬間だったのだ。高校を卒業する前から、わたしはフォギー・デューの所属する音楽事務所に出入りしていた。まだ大きくヒットを飛ばしたバンドもなく小さかったからこそなのだろうが、熱意が通じた、と言えないこともない。
わたしは、フォギー・デューを自分の力で変えたかった。無籐という人がくすぶっているのを見過ごせなかった。なぜ、周りの人間は何もしないのだろうと思っていた。
わたしという存在は事務所の中にあって一際目立っていた。もちろん、メンバーが訪れることもある。わたしは初めてまっすぐ、ロック・スターではない人としての無籐と会った。
「無籐さん、フォギー・デューのメンバーを全員クビにしましょう」
「きみ、だれ」
「わたしはどうでもいいんです、とにかく」
唐突に物騒な話を始めたわたしを大人が引きはがそうとする。
「ちょっとまって。きみ」
「わたしですか」
「そう。ああちょっと、離してあげて」
大人たちがすっと引く。誰も彼女の言うことには逆らえないといった風に。
「きみ、名前は」
「[[rb:片霧 > カタキリ]]です」
「そ、カタちゃんか。じゃ、カタちゃん。今日からきみは、ぼくのものだ」
そして今すぐ、カタちゃんの言う通りにすること。
そうしてわたしはフォギー・デューのマネージャー、そして無籐のお気に入りになったのだった。
開演から三曲が演奏され、一旦演奏が止まる。MCはしない。既にオーディエンスの熱気がこちらにも伝わってくる。
フォギー・デューを第一線で通用するようなバンドにするためには、無籐に負けない音が必要だと思った。
いっそソロにした方が、という声もあったし、実際に音楽的な才能を百パーセント活かせるのはそっちだとわたしも思う。とはいえ。
無籐はバンドで抑えこんでおかなければ駄目なのだ。
天衣無縫だとか、破天荒だとか、決してそういったタイプの人間ではない。破滅型の天才、という表現があると思うが、どちらかといえばそちらに近い。
とにかく、シンプルに、悪人なのだ。音楽に於いて天賦の才を与えられながらも、真っ直ぐな悪人として育った彼女は性格が悪く、芸能界に居ながらにしておよそ愛嬌というものに欠け、親しいものを日用品の如く使い減らしていく。
無籐に友達は居ない。天川と点字倉は音楽面に於いて無籐の両腕のような存在だが、私生活で関わろうとは一切しない。できるだけ移動も別にしてくれ、というのが彼らがこのバンドにメンバーでいるための条件のひとつだ。
わたしは。
一時期わたしは無籐のパートナーだった。無籐による暴力とハラスメントに愛の力、だと思っていたものですべて耐え切り、最終的に壊れる寸前までいった。
無籐にはおよそ情というものが感じられない。そういう意味ではサイコパス的、なのかもしれない。彼女は美しく、暴力的で、世の中のすべてに退屈していた。
無籐は誰にも理解されないのではないか、と思う。理解されないという一点に於いて、わかりやすいとも言える。だからこそわたしはこうして、いまでも無籐のそばでマネージメントをしているし、おそらくフォギー・デューの関係者の中で最も揉め事に強くなってしまった。
バラードが聞こえてくる。
無籐の歌声は決してうまくもきれいでもない。しかし、その美しさはうまさやきれいさを越えたところにあり、高いソング・ライティングの才と相まってニール・ヤングやロバート・ワイアットなどにもたとえられたりする。
天使の声に似ている。
わたしも、金網も、無籐に救われた。それは間違いない。たとえその後に地獄を見る羽目になったとして、前の地獄よりはましなのだ。
無籐は、わたしは、金網をさらってきた。
普通であれば、親に養われ学校に行っている年齢だ。けれど彼女は無籐に飼われ、こうしてフォギー・デューすべてのライブで最前列から祈りを捧げている。
金網の境遇は改善したとも悪化したとも言える。無籐としては別に彼女を救う気なんてなく、ただ手元に置いておきたいからそうしただけの話であって、繰り返しになるがそこに情はない。
無籐はロックスターだから許されるのだろうか。いや、そんなことはない。凡人だろうと天才だろうと罪人はいずれ、順番が来たなら裁かれる。神の引いたくじが底を尽きるまでには呼ばれる、そういうことだと思う。
爆音でジャックスの「堕天使ロック」が演奏され、今夜の公演も終わりを告げた。ギターのフィードバック・ノイズだけを残し、気の早い客電が点く。
アンコールはない。
フロアがゆっくりとざわめきだし、やがて出入り口に向かってゆるやかに移動し始める。スタッフによる機材の撤収が始まる。
「片霧さん」
金網だ。
「今日、時間ありますか」
「テストだっけ」
「そうなんです、二十日から」
折衷の末に、金網は通信制の学校に通っている。普段からフォギー・デューのツアー・スタッフにマスコットのように可愛がられているが、それだけで社会に出ることはできない。おそらく最もまともであろうわたしが、最低限の勉強だとか、常識だとか、そういうものを教えている。
姉妹みたいだ、と言われる。
下品な話だが、間違ってはいない。主に男性社会に於いて同じ女と寝た人間を兄弟と呼ぶのだから、わたし達は姉妹だ。
「片霧さんの授業、難しくなくて好きです」
「無藤よりも」
「比べるものじゃなくないですか」
「わかってる。冗談」
乾燥した笑い。年をとったな、と思う。目つきも視力も悪い。無藤はわたしのなにを見て『顔がいい』などと言うのだろう。
金網はかわいい。そんなに美人なわけじゃないけど、とにかく愛嬌がある。くるくると変わる表情を眺めているだけで幸せな気持ちになれそうな。
「失礼します。片霧さん、ちょっといいですか」
「どうしたの」
「打ち上げの件なんですけど」
「わかった。金網ちゃん、またあとでね」
「はい」
大人の話し合いの時間だ。とはいっても、基本的には飲み会のセッティングでしかない。今回は対バン相手がいないので気を遣うこともない。
「カタちゃん」
「いま忙しいんだけど」
とはいえ、こんなバタついてるときに無藤の相手をしたいかと言われるとノーである。
「関係ないよ」
その小さな身体からは考えられないような力で引っ張られる。
「ビックリするぐらいまずいって評判のラーメン屋を教えてもらって」
「これから打ち上げでしょ」
「そんなんブッチしてさ」
「ダメです」
「まあ、いいけどね」ひとりでもどうせ行くし。
無藤に金網をあてがってから意外だったのは、無藤の聞き分けがよくなってきたことだ。最近はまるで人間なんじゃないかって思うこともある。
金網にほれてまともになった、なんてまさか。
でも、そのまさかだったとして、わたしは悔しいだろうか。
わたしが受けられなかった、無藤の寵愛を金網が受けていることが、妬ましいだろうか。
それはそれでなにか、釈然としないものを感じる。
未だ身体中に残る熱。比喩ではなく文字通り消えない傷として残るそれらを思う。別にわたしがMだとか、そういう話ではもちろんない。
ないが、それはそれとして、無藤に傷つけられてきた日々を、あの過去を、もしもで上書きするのが嫌なのだ。あれは不幸な過去だった、もし幸せに過ごせていたなら。
あんな、クソみたいな時間にも得るものがあった。いかにもDV体験者の見本でございますといった言い分には自分でも苦笑いするぐらいだが、たとえバランスが悪かろうとも自分にも得るものはあったし、無籐にも何かを与えていた、だろう。
「主役がいないと打ち上げも何もないでしょ」
「じゃあ打ち上げなんてなしなし。主役の命令」
「はいはい」
いちおう言うだけ言ってみたが、案の定の返事。こういうことはたまにあある。無籐が参加しない打ち上げだと天川と点字倉が参加するだろうし、それはそれでいい。問題はどちらにつくか、だ。
別にいまさら無籐とのプライベートな時間を欲しているわけではないし、だからといって無籐を野放しにしておくのもな、いや久しぶりに無籐のいないところで飲みたいな、色々考える。
「片霧さん」
「あ、はい。すぐ行きます」
スタッフの呼び出しで会話は途切れた。ぼんやりと、今日は飲み会の気分かな、っていうか金出してまずいご飯は食べたくないな、いや馴れたけど、といったことを頭の片隅で考えながら機材の撤収を手伝う。
あ、そうか。金網ちゃんに勉強頼まれてたんだっけ。
それこそブッチする前に気付いて良かった。しっかり者みたいな面しておいてすぐにこれだ。ちょっと考え事をすると忘れてしまう。ニワトリみたいな、と言われても反論できない。
しかたない、というほど名残惜しいわけでもない。マイホームパパよろしく真っ直ぐにホテルに戻ろう。ほかのスタッフに、明日のスケジュール関係など必要事項を伝えてとっとと帰る。
金網を連れて行こうと思ったのだが、彼女は無藤について行ったらしい。まあラーメンを食べに行くぐらいなら何も起こらないだろう。ちょっと気になる味の感想に関しては帰ってきてから訊くとして。
これで帰ってこなかったらむしろ彼氏が仕事で帰れないときの彼女みたいだな、とぼんやり考えながら、一本だけバドワイザーを買い、部屋で飲むことにする。
ツアーで酒量が増える、というのはいかにも音楽関係者らしいなと思うのだが、打ち上げで飲み過ぎるだとか、眠れないので眠剤代わりに、といった理由とは少し違う。
馴れないバスルームが怖いのだ。
言葉にするとなんだか子供みたいだが、一度は再起不能の手前までいった傷が未だに、無藤の文字通りの爪痕が痛むのだ。
これが自宅であればシャワーの水温は調節も含めて常に一定にすることができるが、知らない、馴れない、もう少し言うとあまり高価ではない宿に泊まるときは緊張してしまう。
酒が感性を鈍らせる。
死んでもいいかな、と思える。特別酒に弱いということもないのだからたった一本飲んで風呂に入ったくらいで死にはしないのだが、万が一、宝くじのいい金額に当たるような確率で死ねたらな、なんて都合のいいことを考える。
いや、わかっている。中途半端だ。結局わたしは悪人になりきれない程度には真っ当で、真っ当になりきれないぐらいにはクズなのだ。
もっと酒で泥酔して我を忘れる方がいっそ清々しく周りに迷惑をかけられるだろうし、一方で旅行先のホテルでマネージャーが死んでいた、なんてことは避けたいだろうな、と周りの心配をしてしまう。
結果残ったのがこの、薄いビール一本分の好奇心だけ。
古傷と表現するのもためらうような、未だ生々しさが残る傷が痛む。それは思っていたよりも理性をつなぎ止めるのに機能している。
シャワーを浴びている最中に、鍵が開く音がする。きっと金網が帰ってきたのだろう。
ちょうどいいと思い、シャワーを止めて切り上げる。
「おかえり」
「ただいまです、えっと、シャワー借りられますか」
「ちょっと待って」
ちらっと見た金網は赤面しているようだった。わたしとの時間のために走ってきた、わけではないだろう。
また無藤がセクハラしたのか。おそらくは文字通りに、であろう汚された金網のために急ぎ気味で浴室を空けてやる。
こういうところ。
セクハラは止めないがアフターケアは気にする。そういう欺瞞でわたしはできている。金網はわたしと違い乱暴されているようには見えないが、これがDVだったとしてもわたしは止めないだろう。
冷蔵庫から炭酸水を取り出して飲む。ビールとは違い、健康そのものみたいな味がする。
わたしに酒の味を教えたのも無藤だった。初めて酔うという状態を知り、潰れ、気付いたらホテルで無籐に抱かれていた。
振り返れば振り返るほど最悪な気分になる。砂も苦虫もここまでマズくはないだろう。
「あの、ありがとうございました」
「大丈夫だった」
「無藤さんですか、いつも通りでしたよ」
やはり何かあったのだろう、頬を赤らめながら答える。なるほどかわいらしい。
「ほんとに、びっくりするぐらいおいしくないラーメンで」
「金網ちゃん」
「なんですか」
「大丈夫」
「どうしたんですか、大丈夫ですよ」
わたしは幸せです、と言うその表情は恋する少女のそれで、いやおうなしに昔のわたしを思い出させた。
いくつか混ざり合った、複雑な苦味がする。
「勉強やろうか」
「はい」
わたしは決して頭のいい人間ではないが、学校の成績は良かった。そういう人種であるからして、自分が習った範囲はだいたいきちんと覚えているし、刷新されている部分にも一緒に考え、ついて行くことができる。
まだ大丈夫。芸能に、フォギー・デューに携わる以上、愚かでは居られないのだ。
そうしていつものように穏やかに勉強を教えていたら、どんどんどん、がちゃがちゃがちゃ。扉から乱暴な音が響く。
「無藤」
「おっす。金網受け取りに来たよ」
「今勉強中」
「いいっていいって」
「良くないんだけど」
「ほら、金網。行くよ」
「あ、はい」
さっと道具を片付け始める。
「あ、いいよ。置いてきな」
どうせ持って行っても勉強できる環境になんてないのだろうし。
「じゃあ、すみません」
二人で出て行こうとする。無藤は振り返り、わたしに捨て台詞を吐いていった。
「妬いた」
「まさか。頼むから、金網ちゃんは傷つけずに扱ってあげてよ」
「わかってるよ」
今度こそ出て行き、部屋の中が静かになった。
金網の勉強道具一式を片付けながら、ビール一本分酔った頭で思う。
何やってるんだろうな。
わたしも、無藤も、金網も。フォギー・デューも、ファンも。
何もかもがばかばかしい。
けれど、ロックって、芸能って、そういうもの。
音楽がやりたければ四分三十三秒じっとしていればいい。マネキンみたいに、透明人間みたいにまとった服が情報が、華やかな芸能の本質なのだ。
去り際の金網と無藤の表情を思い出す。
幸せになれとも不幸のどん底に落ちろとも言えない。
寝よう。
三日後、ツアー途中のホテル内で無藤が逮捕された。ひとまずは大麻取締法違反の容疑がかけられているが、この勢いだと余罪も一気に判明しそうだ。当然、金網は親元に戻されることになり、うちの事務所は金銭の損害を受け、マスコミによる執拗な取材を被ったものの刑事責任を問われることはなく、ただ、虚無だけが残った。
事情聴取で一度ずつ顔を合わせた以外には、金網とも無藤とも会っていない。天川と点字倉からは続けてほしいと引き留められているが、無藤がもう帰ってこないならフォギー・デューに関わる意味はもうない。よほど特別な何かがなければ辞めるだろう。事務所としては無藤を切る方向で動いている。
タバコに火を着ける。甘くない、百パーセント身体に悪いやつ。
事務所のラジオからは音楽番組が流れている。
金網が悪い遊びを覚えていなきゃいいけど。遅いか。すっきりと忘れて更正してくれれば良いのだけれど。
無藤はもう帰ってくるな。
煙を吐き出す。近くに居た女の子が顔をしかめる。
「次のリクエストはラジオネーム『ベーカリーの子ども』さん。『この曲が流れるとライブが始まる、という気持ちに今でもなってしまいます。事件は残念でしたが、しっかりと罪を償ってまたわたし達の前に姿を見せてくれたらと思います』ということで」
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