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助手席に座る結衣は、窓の外を静かに見ていた。膝の上に大きめのトートバッグが鎮座している。彼女の髪を結っているリボンと同じオレンジ色のタータンチェック柄だ。先日の誕生日に姉からのプレゼントで贈られたこのバッグを、たいそう気に入り、出かける時はいつもこのバッグを使っていた。中にはいつも使っているクロッキー帳と、たくさんの鉛筆が入っていることだろう。
最近ではスマホやパッドでデジタルイラストを描ける時代だが、結衣は絵の具やパステルや色鉛筆で描くことを好んだ。たまに
色鉛筆も彼女にかかれば十二色では足りないと言う。彼女の部屋には大きなケースに入った六十色の色鉛筆たちが鎮座している。それらを見事に使い分けるのだから、たいしたものだ。彼女の目はいったいどうなっているのだろう。
絵の具の赤色一つをとっても、いろんな名前があるのだと楽しそうに教えてくれたのが、彼岸花を描いていたつい今朝のことだ。赤い絵の具に、白、黄色、青、紫と、それぞれ混ぜ合わせて、目の前にある彼岸花の色を再現していく。それがとても楽しいのだと。アイスを食べているときと同じように頬を紅潮させて言っていた。
それじゃあ、その頬と同じ色はどうやったら出来る? と悪戯心で聞いてみると、「変なこと言わないで!」と恥ずかしそうに真っ赤になって怒られた。
「…………ふふっ」
「なに笑ってるの?」
「なんでもないよ」
「うそ」
「ほんと」
攻防を繰り返しているうちに、半田中央インターチェンジの看板が見えてきた。料金所を通過して県道265号に入る。もうすぐ着くよ、と声を掛ければまた窓の外に視線を移した。今度は少し身を乗り出している。
彼岸花目当てだろうか、車道は少し混んでいたが、難なく進めた。市街地の合間に田畑が広がる道を走っていると、ちらほらと『新美南吉記念館』『南吉の生家』と看板が立っている。
「新美南吉、だって」
看板を見た結衣が声を上げた。
「ここの生まれらしいね」
「小学生の時に、国語で『ごんぎつね』やったよ」
「……あぁ、俺もそれくらいの頃にやった覚えがあるよ」
結衣の無邪気な声とは裏腹に、『ごんぎつね』の内容を思い出して、雪彦はどんな顔をしていいのかわからなかった。
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