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愛知県半田市にある矢勝川の彼岸花は、ずいぶん前に恋人に教えてもらった場所だ。実際に雪彦が訪れたことはない。この時期に彼岸花を見ると、大抵恋人は「半田の彼岸花が綺麗に咲く頃だ」と言っていたのを覚えていただけだ。
「……
ついでに出てきた周辺の観光スポットにも目を通した。ついついと画面をスクロールしていく。どのサイトにも必ずと言っていいほど、新美南吉の名前が載っていた。これも恋人に教えてもらったことだが、童話作家の新美南吉は、半田市の生まれだという。小学生の頃に国語の授業で『ごんぎつね』を読んだくらいだ。これから向かう場所のすぐ隣には、新美南吉記念館があるらしい。時間があったら覗いてみるのもありか、と考えていると結衣が乗り込んできた。残暑が残る九月とはいえ日が暮れれば寒くなることを考えたのか、結衣は厚手のパーカーとスカート姿だった。
「お待ちしておりました、お嬢さま」
「お待たせしました」
窓を少し開けて、車内の暑い空気を外に逃がす。そうして走っていれば自然と車内は涼しくなっていく。
高速道路に入る前に、コンビニに立ち寄ってクッキーとパックの紅茶、それから少し高いアイスをこっそり買い込んだ。誰もが知っている銘柄のマカデミアナッツのアイスは、彼女の好物だ。アイスの入ったビニール袋を渡すと、途端に目の色を輝かせた。
「
人差し指を立て、声を潜めて食べるアイスの味は格別だ。
結衣はふくふくと頬を赤く染めて嬉しそうにアイスを口に運び、そのたびに幸せそうな声を漏らした。あぁ~ほっぺが落ちそう……しあわせ……と大事そうに食べている。なんでも美味しそうに食べる義妹だが、こんな表情を見せることは、外食はもちろん家の中でもそうそうない。見ているこっちも頬が緩んだ。雪彦も久々に食べるグリーンティーのアイスに舌鼓を打ち、固まった指をぽきぽきと鳴らした。
「まだ遠いの?」
アイスを食べ終えた結衣が、リプトンのミルクティーを開けながら聞いてくる。
「高速乗ればすぐさ」
夏に、彼女の兄と南知多の内海まで行ったことがある。目的地は同じ知多方面にあるが、一時間も掛からないだろう。雪彦もレモンティーで一服してから、エンジンをかけてハンドルを回した。
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