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結衣が一生懸命、彼岸花を描いている隣に、ローズマリーの
「あ、ミケさんだ」
結衣に、ミケさんと呼ばれた三毛猫はふてぶてしい顔でそっちを見て、のっそりと結衣の隣に横になった。
「ミケさん、今日はひとり? シロさんは一緒じゃないの?」
いつも、ミケさんは白猫と一緒にやってくる。けれど今日はミケさんだけだった。野良だから決して綺麗とは言えない背中を、結衣は
「あ、さては結衣に浮気しちゃう気だなぁ? ミケさんいっけないんだ~ シロさんに言いつけちゃおう」
なんて言いながら、結衣は楽しそうにミケ
さんのおなかを撫で始めた。動物は心根がいい人を見分ける目を持っていると聞いたことがあるが、確かにそうだと雪彦は思った。
結衣は、他の兄姉よりもおとなしめで、おっとりした性格だ。実際に、ご近所のおばさんたちからは「一之瀬さんとこのお嬢さん」と呼ばれてたりする。いつもゆっくりしたペースで話し、にこにこと話を聞いてくれる。結衣がいるだけで、場の雰囲気が和むのだ。
なので、学校での彼女の評価はむろん高い。三者面談でよく聞くのは、結衣がいるクラスは問題を起こさない、らしい。
とはいえ、やはり彼女も一之瀬家の血を受け継いでいることを
一度だけ、彼女が大声を出して怒ったことがあった。別のクラスだが、自殺しようとした女子生徒を止めようとしたときだった。いなくなった女子生徒はクラスでの虐めを苦に、入水自殺をしようとしていた。
そのとき、一番に駆けつけた結衣は今までに聞いたことのないくらいの大声で止め、さらには平手打ちをした。今、その女子生徒は結衣と同じクラスで穏やかに暮らしている。学校での事件ではなかったから、そこまで話題に上らなかった。
この一件は雪彦も囓っていて、結衣の足となって車を出していた。そのときの結衣の様子を見て、あぁ、彼女も一之瀬家の人間なんだなぁ、とほとほと感心してしまったほどだ。それでいて平然とおっとりな性格でクラスに馴染んでいる結衣は、将来は大物になるかもしれない。
「あ、ほらほら、シロさん来たよ」
結衣が指した方を見ると、ローズマリーの茂みから、白い猫が出てきて、ミケさんに体当たりをしてきたところだった。
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