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青居月祈
1章
1
庭に咲いていた
先日、その向日葵は台風の風に折れて、倒れていた。そして、その後を引き継ぐように、根元から真っ赤な彼岸花が一輪、咲いたのだった。
この彼岸花に興味を示したのは、向日葵の世話をしていた義弟ではなく、末の
「お茶が入ったよ」
紅茶が乗った盆を持って、雪彦が声を掛けた。彼女はもう少し、と色鉛筆を丁寧に動かした。そうして遠目から眺めて、少しだけ頷いてから、
カップに紅茶を注いで彼女に渡す。開きっぱなしにしてある引き戸の縁に腰掛けて、雪彦が入れた紅茶を一口飲んで、彼女はようやく息をついた。その拍子に、高い位置で一つに結わえた髪が、ゆらと揺れた。
彼女は、名を
この義妹と雪彦は歳が十も離れている。しかしこれといって話が通じないわけでもなく、
「
仰々しく訊ねてみると、彼女は照れたように笑った。
「やめてよ、雪お兄ちゃん、先生だなんて」
そう言いながらも、結衣はスケッチブックに描いた彼岸花を見せてくれた。ここ数日で、赤い花火に似た華が、いろんな角度からたくさん描かれていた。水彩の淡いもの、色鉛筆で濃く描かれたもの、画材に合う描き方をしていた。
「良く描けているね」
そう言うと彼女はまた、そうかなと首を傾げて、紅茶を一口飲み込んだ。どうやら結衣は、今の状態では満足してはいないようだった。自分の描いた絵を見ながら首を傾げ、本物と見比べる。そしてまた、近づいて色鉛筆を手に取った。
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