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『大丈夫か?』
『いいっつってんだろ、早くしろ』
『じゃぁ……遠慮なく』
バチン、と音がして、痛みよりもまず音の大きさに身体が跳ねた。その後に針が刺さった痛みがじぃんとゆっくり広がって、身体を痺れさせていく。あまりにも鈍い、けれど跡を残す痛みに涙が出てきた。
『いってぇ』
『ほら見ろ、言わんこっちゃねぇ』
そう言ってピアスを開けてくれた奴は、親指で雪彦の目元を拭った。
いつかのやりとりが朧気に蘇ってきた。最初、大樹は雪彦の身体に傷をつけるのを嫌がってピアスを開けてくれなかった。塞がってしまったピアスの穴に触れると、ふと、寂しさがこみ上げてきた。
「ゆき兄は、兄者のこと、忘れたいの?」
単刀直入な質問だった。
「……ほんとのところ、どうなんだろうね」
曖昧に答えたけれけれど、言われて気がついた。雪彦は、大樹のことを忘れたいのだ。一時的なものだとしても、雪彦の中から大樹を消すことで、不安を消そうとしている。だから、大樹の影があるものをこうして埋めたいなんて思ってしまったのだ。
付き合う前のもどかしさとか、付き合った後の苦しさとか、嵐志はまだ知らないのだろう。少なくとも女の子の影は見当たらない。好きな子とか、恋愛とか、そんな相談もされたことがない。だからこんなふうに純粋に、悪意なく、聞いてくるのだ。
ピアスを嵐志の手から取り上げて瓶にしまう。片耳の幻想的な色のピアスは、カランと硬質な音を立てて瓶の底に転がった。
庭の、嵐志が掘り返した穴に瓶を沈める。
「これを持ってちゃ、いつか爆発しちゃう」
「ビー玉とか、矢羽根とかが?」
「俺に取っちゃ立派な爆弾だ」
ざかざかと土をかぶせる。見えなくなっていく。
「言ってよ」
嵐志が声を上げた。
「ゆき兄は、いっつもそうやってはぐらかして、誤魔化す。何かあるように匂わせて、俺たちの気を引く。なのに何にもないって言って、遠ざけようとする。でも、ほんとのほんとはめちゃくちゃ大きな爆弾抱え込んでて、気づいたときには爆発寸前。そういうとこ、兄者とおんなじ」
真剣な眼差しがぶつかる。
「俺は馬鹿だから、言ってくれなきゃわかんないって。もうあの時みたいな、なにも知らない子どもじゃない、話を聞くことくらいはできる。いつだってそれを教えてくれたのは、ゆき兄だ」
あぁ、と雪彦は思った。
この子は優しい。なにも知らないから手を伸ばせる。知ったとしてもきっと彼は自分なりに理由をつけて手を伸ばすのだろう。
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