7
「家族が、全てじゃない……」
嵐志はその言葉をかみ砕くようにゆっくりと口にした。
「祈りを捧げたいと思うほどに、嵐志くんにとって遥くんは大事だったんだね」
「祈り……」
目の前の炎は折り鶴を全て燃やし尽くしてなお、燃えていた。火の粉と灰が舞い上がって、ある程度の高さまで行くと、きらきらと振ってくる。
「祈りは、」と嵐志が口を開いた。「前にゆき兄にもらったものがあればいい」
広島の時に渡した白い折り鶴のことだ。あの後、あの鶴は綺麗に羽を広げてもらって嵐志の部屋の机の上にちょんと鎮座しているのを、雪彦は知っている。
「嵐志くんが死ぬときに、いっしょに棺に入れてあげる。それまで大事に持ってなよ」
ぐりぐりと頭を撫でると、気持ちよさそうに嵐志は目を細めた。
少しずつ弱くなっていく炎を二人そろって見ていると、ふと、雪彦の胸の辺りが少しばかり冷たい風が吹いた気がした。
「俺も埋めちゃおうかな……」
ぽつりと呟いたのを彼は素早く聞き取ったらしい。
「なに埋めるの?」
「忘れたいこと」
「忘れたいことあるの?」
「あるよ」
例えば大樹のこととかね。口には出さなかった。それでも嵐志は何か感づいているのか。眉を寄せて雪彦を見上げるだけだった。
「埋めてしまおう。忘れたいことは全部埋めていいんだ。でも、埋めたことは忘れちゃいけない」
よっこらせ、と立ち上がる。膝の裏がぴりぴりと痛んだ。
ストラップ。懐中時計。ビー玉。ピアス。矢羽根。メールアドレスの書かれたメモ。
「これは爆弾」
「爆弾?」
「全部大樹にもらったもの」
あめ玉の瓶に詰められたそれらを見て、嵐志は怪訝そうに顔をしかめた。
「……いいの?」
「いいんだ。どうせ大樹も忘れてる」
見ていい? と少し興味があるみたいに嵐志が聞くものだから、瓶を差し出す。開けっ放しにしたガラス戸に座って、嵐志は瓶の中身を一つずつ丁寧に出して眺めた。アメジストとエメラルドのグラデーションをした不思議な色のピアスを手に取ると、ふと雪彦を見上げる。
「ゆき兄、ピアス開いてたっけ?」
「開けたよ」
ほら、と耳に掛かる髪を手でよける。ずいぶん前に塞がって、そのままにしていた。
「ほんとだ」
つ、と手を伸ばし、穴のある辺りに触れられる。冷たい指先だった。
「痛かった?」
「さぁね。もう覚えてないよ」
高校を卒業すると同時にピアスを開けた。身体に針を通すのだから、痛くないはずないのだけれど、どうしてかその時の記憶はおぼろげだった。そういえばこれ、大樹に開けてもらったんだっけ。
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