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 バスを待つ間、行きたいところはあるかと聞くと、嵐志は平和記念公園と答えた。

「それじゃ、腹ごしらえしてから向かおうか。なにが食べたい?」

「ゆき兄はなにが食べたい?」

「俺はあんまりお腹すいてないから、嵐志くんが選びな」

「じゃあ……汁なし担々麺。駅に上手そうな店があった」

 ハンカチで首の汗を拭う。ホテルにチェックインしたら、まず最初にシャワーを浴びたい。それからすぐに寝てしまうかもしれない。ここまでの道のり、すっかりふくらはぎが張ってしまっているから、マッサージも忘れずにしたいところだ。嵐志が来たところで雪彦の予定が狂うこともない。元より一泊の旅だし、目的は果たした。後はお土産を買って帰るだけだったのだから。

 二人でバスに乗り込んで、一番後ろの席に座る。他に誰も乗っていなくて、そんな中での一番後ろの広い座席は、まるで特等席に座っているようだ。

「ゆき兄は、」と、嵐志が口を開いた。「一人で来たかった?」

 一人分の空間が雪彦にはやけに遠く感じた。嵐志は窓の外を見ながら、窓枠に肘をついている。どんな表情をしているのか雪彦には見えない。でも声の加減で少し拗ねているみたいだった。

「邪魔だった?」

 なにも言わない雪彦にたたみかけるように嵐志は問う。

「そんなことないよ」

「ほんと?」

「むしろね」今度は雪彦が口を開く。「嵐志くんなら、きっと追いかけてくれるって思ってた」

「うそ?」

「ほんと」

「俺、邪魔じゃない?」

「まさか」

 こっちを見ない嵐志の頭をそっと抱き寄せる。

「こんな可愛い義弟が、邪魔なわけないだろう? わざわざこんな遠い土地まで、俺を追いかけてくるんだもの。愛しくて、このまま離したくなくなっちゃう」

「兄者が嫉妬するぞ?」

「嫉妬しとけばいいさ」

 連絡もくれない恋人なんて、と言いかけて口を噤んだ。

 ここのところ、大樹からの連絡が途絶えがちだった。メールでやりとりしていたけれど、その返信の頻度が日ごとに遅くなっていっている気がしていて、ついには一週間ごとにしか返信がされなくなってしまった。

 いつだったか、こんな話を本で読んだことがある。宇宙に旅だった少女と地球に残った少年の遠距離恋愛。携帯電話のメールでやりとりしているも、地球から遠ざかるにつれてメールの往復に掛かる時間が開いていく。ワープの影響もあり、時間は年単位で伸びていく。それに似ている気がした。俺たちは同じ地球の中にいるはずなのに、おかしいな。

「ゆき兄、」腕の中の嵐が静かに身動いだ。「大丈夫だよ」

 なにが、と雪彦は聞かなかった。

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