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 終戦記念の式典の映像が、テレビに流れる。仰々しく行われるそれを二人で見ていると、嵐志が口を開いた。

「俺の父方のじいさん、特攻で死んだんだって」

「……そっか」

 雪彦の父方の祖父も特攻に志願していたのを思い出す。祖父の場合、出撃前に既に終戦してしたため無事に戻ってくることができた。その話をすると、嵐志はゆっくりとテレビから雪彦に視線を移した。

「よかったじゃん、帰って来てさ」

「そうはいかなかったみたいだけどね」

「……どういうこと?」

 言いかけて、口を噤んだ。終戦時に関することなんて雪彦は知らない。でも親戚が話していた端々からだいだい想像することができる。聞かされたそれは結構酷い話でもあって、果たして話して良いものなのだろうか。アイスティーに口をつけて、雪彦はなにげないふうを装って話し始めた。

「戦争に行って、死ぬことが誇りだった時代だ。そんな中でおめおめと帰ってきた祖父に、酷い言葉ばかり掛けられたらしい。例えば……『非国民』『一族の恥』『御国の為に命を捧げなかった臆病者』『生き恥晒し』『死に損ない』それから、」

「やめてゆき兄っ」

 眉をぎゅっと寄せて、嵐志が雪彦を見ていた。

「怖い顔、してる」

「……ごめん」

 手のひらで顔を覆う。顔が強張っているのが、今になって自分で気づいた。もう大丈夫だから、とぎこちなく口元を緩めた。

「でもね、周りはそんな人ばかりだったけど、奥さん、えっと、俺の祖母だけは違った。おかえりって、愛してくれたんだってさ。そんな人が一人でもいてくれたから、俺は生まれて来れたんだなぁって。この頃になると、たまにそう思ったり、思わなかったりするんだ」

 一人だけ自分を愛してくれる。それだけで幸せ。そんな、おとぎ話みたいな結末。雪彦の祖父は出兵前は独身だった。だからこそ、そこで命が途絶えていたら、もしかしたら雪彦は生まれていなかったかもしれないのだ。

「おじいさん、会ったことあるの?」

「あるよ。五歳の頃に一度だけね」

 そもそも厳格な家でもあったし、広島の方でなかなかこちらからも会いに行ける距離ではなかった。でも雪彦の誕生を一等喜んでくれた。桃の節句、女子の祝日に生まれた雪彦に、なんの偏見もなく接してくれたのも、祖父だった。祖母と共に既に死別しているが、たまに墓参りに赴くこともあった。今年はまだ行っていない。そろそろ行くべきか。

 そんなことを考えていると、広島か、と嵐志が呟く。

「ちょっと、遠いね」

「そうだね」

 からん。

 また、氷が溶けた音がした。

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