4
雪彦が言い終わらぬうちに嵐志は駆け出した。砂に足を取られながら、もどかしそうにサンダルを脱ぎ捨てて、ジーンズの裾を
膝下まで海に浸かったところで、嵐志は足を止めた。視線は呆然と果てを
「どうしたの?」
「いや……」
嵐志は言葉に詰まったようで、それ以上動こうとも、話そうともしなかった。その目はなにを見ているのだろうか。同じ位置に立って、嵐志と同じ方向を見定めてみてもわからなかった。彼がなにを見ているのか。それは
嵐志だけが知っていて、結局のところ、雪彦にはわからないのが当たり前なのだ。ただ、囁くように潮騒が耳の奥に嫌と言うほど焼き付いた。
寄せる波は思ったよりも強く、気を抜いていると足を取られそうになった。
「おなかすいたろ。ごはん、食べよっか」
嵐志はうん、と曖昧に答えた。
ピリ辛のソースがたっぷり入ったバーガーにかぶりつく。舌がひりついて痛いくらいの辛さがいい。雪彦同じものを注文した嵐志は「思ってたより辛い」とアイスティーで流し込んでいた。他に雪彦はサワークリームとチキン南蛮のバーガーを、嵐志はキャベツとトマトがたっぷり入ったバーガーを、それぞれダブルサイズで平らげた。
食後のアイスコーヒーを飲んでいるとき、変な感覚が襲ってきた。怠い、とはいかないまでも、ぼーっとする。熱があるようで、多分ない。食べ過ぎたのかもしれない。がらがらとプラスチックのカップの中で氷が鳴って、変な重さが手に残っていた。
雪彦は大樹たち兄妹に出会う前は、相当な偏食だった。一日に一回しか食事を取らなかったり、酷いときには金平糖やドライフルーツを数個しか口にしなかった時期もある。今でこそすっかり一之瀬家の食事で体調管理もされているけれど、
少し横になると嵐志に告げて、砂の上にごろんと倒れた。日差しに灼かれた砂が熱かったけれど、同時にどこか心地よかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます