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サービスエリアで買ったおにぎりだけじゃお腹は満たなかったみたいだ。おなかがぐーっと音を立てた。小腹がすいているときにチョコとか飴とかを食べると、胃が刺激されてさらにお腹がすくという、アレだ。
「やっぱり足りなかったね」
「お菓子じゃ腹は膨れないな」
「嵐志くんはおにぎりはお菓子の部類に入るんだね。覚えておくよ」
「うーん、大きさによる」
高速を降りたところにあったバーガーショップで持ち帰り注文をして、再び車に乗る。ほかほかの紙袋を持って、嵐志のご機嫌が上がった。久々に食べる、と袋の中に充満する匂いを嗅いでいた。
車を発進させる前にカーナビで地図を見ると、目当てのだいたいの場所がわかった。一緒にのぞき込んでいた嵐志は頭にハテナを浮かべていたけれど、すぐ近くに海があることに気づいたようだ。
「天気もいいし、浜辺で食べようか」
「いいね。でもゆき兄、駐車場……」
今ってどこも満車なんじゃ、と続く言葉を遮った。海に関してはとっておきの情報を雪彦は持っていた。
「お義兄さんにお任せなさい」
家族連れであろう車が道路に列を連ねる中、雪彦は脇道に逸れて走り出した。港町の町並みの中を低速度でゆったりと走る。途中、家と家の間だから猫が飛び出してきた。猫をよく見かける町だ。嵐志は猫を見かける度に「ゆき兄、猫」と短く報告してきた。
海に続く道とは逆の道に入ったところにある公園の敷地に、車を止めた。ここ? と嵐志が無言で問いかけてくる。
「おいで」
それだけ言って紙袋を持って外に出た。潮の香りを含んだ風が吹いていた。嵐志と一緒に道路を横切って、堤防に付いていたコンクリートの階段を上がった。堤防の上に付くと、嵐志は感嘆の声を上げた。白い浜と、海が目の前に広がっていたのだ。
「すごい」
「すごいでしょ」
「誰もいない」
「うん。嵐志くんと、俺だけだよ」
誰一人いないのが不思議なくらいだ。近くには海水浴場があって、人がたくさんいたはずだ。車だって、道路にまだ連なっているのが見える。それでもこの場には、雪彦と嵐志だけだった。
「なんで?」
「さて、なんででしょう」
「答えてよ」
「実はここ、恭平さんから教えてもらったんだ」
「親父に?」
ここは以前義父から教えてもらった場所だった。義父は海上自衛隊の潜水士をしていて、その先輩の私有地らしい。その先輩も義父も自衛隊故に滅多に帰ってこず、雪彦に気晴らしにでも来ていいと伝えられていたのだ。
「だからこれは、俺と嵐志くんのプライベートビーチってやつだ」
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