2章 金色海原
1
庭に
この乙女ような向日葵は義弟の嵐志が育てている。種を蒔くところから初めて、毎日欠かさずに水をやり、咲いて、枯れるまでの面倒を見ているのだ。嵐志は夏になると毎年一本だけ向日葵を育てる。これは出会った当初からそうだった。どうしてなのか。雪彦は知らない。嵐志もなにも言わない。だから雪彦も聞いていない。でも
今日もまた嵐志は庭に出て、ホースを水道に繋いで水を蒔いていた。たまにちらりと虹が出ているのが見えた。冷蔵庫からラムネの瓶と切ったスイカを出して、開けた引き戸のとこにどかっと座る。今日も雲ひとつない晴天で、
「あ、黄色いスイカ」
「買ってきたのを切ってみたら黄色だった」
「いいことあるかな」
「金運上がるかも」
赤いスイカに比べたらすこし甘さは少ないけれど、それでも充分においしい。今日も暑いと言いながら、蝉の声を聞き、スイカを食べる。夏の風物詩を満喫だ。雪彦がひとつ食べ終わる時には、嵐志は三つ目に手を出していた。
付けっぱなしにしていたテレビ番組が、ビーチの特集をしていた。雪彦たちが住む県の半島。客で賑わう海水浴場が映し出されて、二人してげぇ、と声を出した。
「人いっぱい……」
「マナー悪っ」
「こういうのって特集されると行きたくなくなるんだよね、俺」
「ゆき兄の言いたいことわかる」
「あ、わかってくれる?」
「だって特集されるってことは、人がいっぱい来るってことだろ。どうせだったら綺麗な景色独り占めしたいじゃん。マナー悪いやつと一緒に見たくないし」
鬱陶しそうにサイドテールにした髪先をくるくると指に絡めながら、でも視線はテレビから離さない。本当は行きたくてうずうずしているのが、手に取るようにわかる。
「じゃあ、ちょっとドライブに行こう」
「どこに?」
「どっか、遠くに」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます