7
「さっきさ、神様も叶えてくれないって言ったよね?」
嵐志が口を開いた。
「なんで俺なら叶えてくれるって思ったの?」
「さぁ……どうしてだろうね」
曖昧にして答えると「ちゃんと答えてよ」と腕を引かれた。おっとっと、とバランスを崩すけど、すぐに体勢を立て直す。
「俺にもわかんないんだ。なんとなく、嵐志くんなら叶えてくれるかなって思っただけ」
これは嘘じゃない。彼ならなんとかしてくれるんじゃないかって。彼はまっすぐで、優しくて、人の願いを無下にできないことを知っている。その優しさに甘えて、付け込んでとも言えることを言ったのだ。少し申し訳なくなった。
「そんなもんか」
そう嵐志が言うので「そんなもんだよ」と返した。目眩のような蝉の声が消えて、遠くで
鳥居の前でお辞儀をしてから、
「ほほえましいね」
「そうか?」
「嵐志くんは誰に教わったの?」
「兄者のを見よう見まね」
「そっか」
「ゆき兄は?」
「俺? 俺は弓道の師範から」
灯籠に明かりがついて、参道が紅く色づき始めた。花火があがるのもあと一時間。刻々と近づいていた。
「花火、見たい?」
「見る」
「じゃ、お参りしてから場所探そう」
雪彦と嵐志はお参りを済ませてから、来た道を戻り始めた。手を合わせているとき、嵐志はなにを願っていたのだろう。彼はなにも聞いてこなかったから、雪彦も聞かなかった。話したかったら、彼から話してくれるだろう。きっと、ぎこちなく。
そういえば、義弟はここ五年の間にすっかりおしゃべりをやめた。五年の歳月は早くて、変化は大きい。初めて会ったときの小学六年生だった少年はもういない。その代わり思慮深い額をした、背の高い、真剣な眼差しをした男子高校生になっていた。思ったことを率直に言うのは変わっていないけど、その節々に、大人びたなにかが垣間見えていた。
自分もこうして大人になったのだろうか。成人を迎えた自分は、果たして大人になれているんだろうか。
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