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「さて、約束だけど……すぐに思いつかないからもう少し考えさせてくれる?」

 嵐志は「いーよ」と言いながら、まだ金魚を見ていた。大きい青年が金魚を嬉しそうに目をきらきらさせて見ているのは、なかなかにおもしろい光景だ。祭りは人を子どもに戻すとは、誰が言ったか。

「あ、りんご飴」

 大きいりんご飴を一つ買って、夕陽にかざしてみる。飴がきらきらと光を散らす。こういうのに胸がわくわくといつもと違う音を立てていた。そうやって懐かしいものを見つけて、心の音を聞いて、少しだけ子どもに戻っていくのを再確認する。あの頃を思い出しては、今と繋がっていることを確かめていく。

 神社に続く石段に座って、りんご飴を交互に二人で囓った。嵐志の一口は大きくて、雪彦の一口の五倍は持っていかれる。そのうち、食の少ない雪彦は半分くらいに残ったりんご飴を嵐志に全部あげた。嵐志は五口で平らげた。

「すごい、あっという間になくなった」

「ゆき兄の一口が小さいからだよ」

 割り箸に付いた飴をまだ舐めている。育ち盛りの高校生は、これくらいではまだ足りないようだ。食べ物の屋台を見かける度に足を止めるものだから、ついつい食べるのに付き合ってしまう。

「すごい、ダイソンの掃除機も顔負けの食欲だ」

「現役高校生なめんな」

「それじゃあこれもあげちゃうね、はい、あーん」

 食べかけのわたあめを口に押し込む。

「あっまい」

「わたあめだもの」

 ふわふわの薄桃色のわたあめは、大きさの割にはすぐに溶けて消えてしまう。甘くて、儚くて、まるで夢みたいな食べ物にまた胸がときめく。

「わたあめって、かわいいよね」

「でもすぐなくなっちまう。腹は膨れねぇ」

 駄菓子の屋台で、金平糖を小さな袋に詰めてもらった。桃色、水色、黄色、翠色。袋の中でざらりと音を立てた。すぐに嵐志に見つかって、もらっていい? とねだられる。

「いいよ。歳の数分だけね」

「じゃあ十七個だ」

「はいはい」

 大きな手のひらに小さな金平糖が十七粒。物足りなく感じたのか、やっぱりもっと、とねだられて倍の数をあげた。

「そういえば今日、七夕だったね」

「そーだね」

「見て、短冊がいっぱい」

 神社の境内けいだいに飾ってある笹に、短冊がたくさん吊してある。近くの東屋あずまやにはペンと折り紙が置いてあって、願い事を書けるスペースが設けられていた。

「たくさんのお願い事があるね。書いてく?」

 聞くとまた嵐志は拗ねた顔して「いい」と突っぱねるように拒否した。

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