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射的をやって、ヨーヨー釣りをやって。それだけですっかり疲れてしまう。神社に続く商店街の隅に腰掛けて、扇子でぱたぱたと風を送る。
「ん」
どこかへ行っていた嵐志が帰ってきて、手にしていたものをずいっと雪彦の目の前に突き出した。ソースと目玉焼きの香ばしい香り。たませんだ。
「ありがとう」
さくっ、と簡単に割れるたこせんべいを囓ると、中からさらにソースとマヨネーズのいい香りが出てきた。大きなたこせんべいにお好み焼きのソースを塗って、つぶした目玉焼きとマヨネーズを挟んだだけのB級グルメ。簡単に言えばジャンクな味わいの食べ物だ。
嵐志もどかっと隣に座って、もしゃもしゃともう一つのたませんを囓った。
「うまっ。やっぱり祭りっつったらたませんだろ」
そう嵐志や他の兄妹は言うのだけれど、調べてみるとここの地域のみの食べ物らしく、全国区ではないらしい。実際、雪彦も三年前に祭りに来て、その存在を知ったばかりだ。
「次、どうする?」
三口でたませんを食べてしまった嵐志は、辺りをきょろきょろと見回す。まだ雪彦は半分も食べてないというのに。
「金魚掬い」
嵐志がぽつりと言った。その視線の先に、金魚が入った袋を持った女の子が、父親に手を引かれて嬉しそうに歩いていた。
「やりたい?」
「やりたい」
「いいよ、やろっか」
ショッピングモールみたいにどこにどの屋台があるのかわからない。それを探すのもまた一興だった。数分もせずに金魚掬いの屋台が見つかった。嵐志がお金を払って、二つのポイ受け取って、そのうちの一つを雪彦に渡した。
「勝負」
「構わないよ。負けたら?」
「なんでも言うこと一つ聞く」
「男に二言は?」
「なしッ」
「受けて立とう」
その結果、嵐志の器には白い金魚が一匹。雪彦の器には紅い金魚が三匹、黒い金魚が二匹、赤と白の金魚が二匹が入っていた。「なんで……?」自分の手の中で揺れる白い金魚を見ながら、嵐志が呆然と呟く。
「嵐志くんは慎重すぎ。慎重すぎて、ポイが水でふやけちゃったのが敗因」
ビニール袋に入れてもらうと、嵐志が大事そうに持った。時々、目の前に掲げて金魚の具合が悪くないか、喧嘩してないかを確認していた。
「金魚、大事にしようね」
「うん」
「明日、水槽を買いに行こう。喧嘩しないように、大きめのやつ」
「うん」
頷いた嵐志は、小学生の時みたいに頬を紅くして嬉しそうに目が潤んでいたみたいに見えた。
「さて、約束だけど……」
雪彦はふっと微笑んだ。
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