一章: 王都帰還編

第8話 アリスシス・ヴァンツーヴェルク①

光が治ったあと、目を開けると暗い所にいた。目が慣れていないせいか何も見えない、ただ感じるのは暗闇のどこからか漂ってくる殺気のようなもので、それらは俺に死を連想させた。



「本当に生きて帰れるのか?」



気付いたらつい口に出してしまっていた。

弱気になるのは俺らしくない。

これくらいの逆境ならすぐにでもひっくり返してやる、今までだってそうやってきたんだ。


んーそれにしてもまだ目は慣れてきそうにない、慣れるまで時間がかかるから昔のことでも考えながら時間を潰すそう、見えないことには始まらないしな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

( 今から4年前アリスが14歳だった時のこと)


場所はダズベスト学院の講堂

現在、卒業式が行われている最中である



「続きまして、卒業生代表挨拶。今年度ダズベスト学院卒業生首席アリスシス・ヴァン・ツーヴェルク!」


「はい!」


観客席からチラホラ声が上がる。


「あれが今年首席のアリス様かぁ」


「さすがツーヴェルク家の麒麟児、異名はだてじゃないね」


「次の剣聖は長男のケイロス様でも三男のアリオル様でもなく間違えなく次男のアリス様ね」


「首席で次期剣聖候補筆頭に加えてあの容姿。全く欠点が見当たりませんわね。」


「ですわねぇ、気になるのは誰がお相手になるかですわね。王妃様もお気に入りのようですから、やっぱり第一王女様の"マレ"様かしら?」


「確かに、しかも同級生ですものね。でもそれだとエリシア様がかわいそうよね。」


「そうね、ずっと隣にいらっしゃるのに王家の血を引いてないから正妻には慣れないし、彼女のお父様が公爵家だから下手に妾にもなれないものね。」


などの会話が行われていた。

エリシアはいつも俺の隣にいたこともあって、エリシアが俺のことが好きだから側にいるのだと勘違いしている奴が多い。幼なじみで小さい時から一緒にいるから、その癖だって言うのに。


俺、アリスシス・ヴァン・ツーヴェルクはツーヴェルク家の次男である。ツーヴェルク家は代々剣聖と呼ばれる役職についている。 剣聖は騎士団の中で最上位であり、戦争が起こった際には参謀として指揮することに加えて自らが先陣を切って相手に向かっていかなければならない損な役目である。


ちなみに、名前の真ん中にヴァンが入ると王族の血が流れていて、フォンが入ると貴族になり、平民にはなにも入っていない。


それはさておき、まずは代表挨拶を終わらせよう。


「〜〜〜〜〜この学院での三年間で学んだ事を王国の力に変えていけるよう、精一杯取り組んでまいります。卒業生代表アリスシス・ヴァン・ツーヴェルク」


(パチパチパチパチ)


ふぅ、終わった〜堅苦しい挨拶はいつになっても慣れないものだな。


式が終わった。

帰宅するためにいつものように校門でエリシアを待っていると、第一王女のマレ様が護衛もつけずにやってきた。マレ様は身長はエリシアより少し低く、綺麗な黒髪をストレートに長く伸ばし、丁寧に切りそろえられた前髪の下に大きい目で、少しつり目気味の顔立ちがかなり整った女性だ。体つきは華奢だ。

.....うん、どことは言わない全てが華奢だ。


「これはこれはマレ様、ご卒業おめでとうございます。」


「ふん、別にそんな社交辞令はいいわ、何のために護衛を置いてきたと思ってるの?」


「やれやれ、マレ、今日は何のようだ?」


そう俺はプライベートではマレ様をマレと呼び捨てにするように言われている。マレ曰く、周りに猫の皮を被った奴しかいないから本音で気軽に話せる友人が欲しかったらしい。


「本題よ、卒業後はどうするつもり?もしアリスが良ければだけど、私の護衛騎士をやらせてあげるわ!」


「あらあら〜、"マレ"ったらまたアリスにちょっかい出してあしらわれているの?みじめね〜」


後ろからニコニコしたエリシアが会話に入ってきた


「き、今日は違うし!あと、エリシア、あんたには呼び捨てしていいなんて言ってないわよ!」


「あら?今日は違うってことは、いつもはあしらわれてるって自覚があるみたいね、マレ?」


「う、うるさい!」


「あら?顔が真っ赤よ?マレ」


「マレ、マレうるさい!あんたはダメって言ってるでしょ!ちゃんと様をつけなさいよ!」


「はいはい。 ところでアリス、マレと何を話していたの?」


真っ赤になったマレが割って入る


「こ〜〜ら〜〜!!」


「おいエリシア、もうからかうなよ、マレがかわいそうだろ?」


「ア、アリスまでなによ!!」


「マレ、ちょっと一回黙ってて。アリス、何の話をしていたの?」


「ああ、マレの護衛騎士にならないかって聞かれたんだよ」


「そーよ!返事は?もちろんやるわよね?ね?」


いやそんなキラキラした目で見られても...


「いや、普通にやらないぞ?」


「な、な、な、何でよ!!」


「俺家継がないといけないし、剣聖が王女の護衛とかまずいだろ」


「そ、そー言われると...」


「ほらわかったんでしょ?さっさと護衛のとこに戻りなさいよ。もう私達帰るからね」


「じゃあ、エリシア!あなたが私の護衛騎士よ!文句は受け付けないわ!」


「マレ?今日という今日は徹底して言いますよ!だいたいあなたね!〜〜〜〜〜〜」


と、まぁこんな感じで言葉のドッチボールがこの後30分くらい続いた。終わったのはマレの護衛達が慌ててやってきたからだ。連れ去られる時も何かエリシアに言っていたが仲良くできないものかな?


「もうマレとのこのやりとりも今日が最後ね」


「いや、俺もお前もこれから王宮に出入りするんだから嫌でも顔合わせるだろ」


「その時はその時よ。それよりアリス、明日からいよいよ騎士団入団ね!同じ団になれるといいわ」


「ん?お前もう配属は第二士団に決まりじゃなかったか?女騎士はみんなあそこの団だろ?」


「まぁまぁ、明日のお楽しみってことで!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌朝 王宮謁見の間



いつものように王様が豪華な椅子に腰掛けていた。


「アリスそれからエリシア、この度は首席と次席での卒業おめでとう」


「「ありがとうございます」」


「優秀な君たちはもうすでに王宮八騎士団の入団が決まっておる。今日はその配属先の発表だ」


王様が丸まった紙を縦に広げる


「ほぉ、ではそなたらの配属先を伝える!アリスシス・ヴァンツーヴェルクとエリシア・フォン・ローザンヌ!そなたらは共に第一士団への配属になる!心して使命を全うせよ!」


「「はっ!」」


謁見後、俺達は第一士団の部屋へ向かっていた


「エリシア、お前第一士団って正気か?というか、どうやってねじ込んだんだ?」


「私はいたって真面目よ、第一士団はアリスのお義父さん、剣聖様にお願いしたら快く了解してくれたわ」


「あの親父にか?というかなんかニュアンスおかしくない?  まぁそれは置いといて、確かにお前には相当甘かったなあの親父め...」


「ほら、着いたわよ、早く入ろうよ」


「でもよりによって第一士団か〜」


扉を開けようとした時横から鎧をつけた兵士が走ってきた


「アリスシス様、お父上がお呼びでございます。先にこちらへお願いします」


「わかった、だそうだエリシア後はよろしく頼む」


「はいはい、気をつけてね」


俺はそこでエリシアと別れて親父の元へと向かった


王宮を出て自分の屋敷へ向かう。

屋敷に入り一回の他の扉より少し大きな扉を開けると親父が剣を持って立っていた。親父は俺と同じ赤髪をウルフカットのようにしていて、顔は老いてはいるがまだまだ現役でやれそうな力強い目をしていた。

そしてこの部屋は親父が以前から訓練用の部屋として使っている壁がやたら分厚く、何もない部屋だ。


「アリスよ、なぜお主をここへ呼んだか分かるか?」


「いえ、わかりません」


実際になぜ呼ばれたか見当がつかなかった


「だろうな、ここだけの話だお前だけに話す。よく聞きなさい」


いつも聞いているのど太い声が今日は一段と良く聞こえる


「アリスよ、わしは今命を狙われておる。敵の正体は全く掴めていない」


「!!!ほ、本当ですか?で、でも、お父上なら返り討ちにできるのでは?」


「わしも最初はそう考えた、だがな、最初の頃は難なく返り討ちにしてあったがどんどん強さが上がってきておる。寝首をかこうとしてくる暗殺者から堂々と一人のところを狙って殺しにくるものまでおる、わしも年だ、全盛期のようにとは体が動いてくれんのじゃ。だからのアリス、お前にこの聖剣を早いが譲ることにしたのだ。」


「待ってくださいお父上!私はまだ騎士団に入ったばかりか、戦場すら経験しておりません!そんな若輩者の私に何か出来るとは到底思えません!」


「アリスや、我が家の掟を忘れてないか?」


「覚えております、聖剣を持つものが死んだ時に次の後継者を必ず決めておかなければならない。でございます」


「うむ、そうだ。 だからその後継者をお前に任せようと思う。明日の正午、謁見の間にてその式を行う、準備しておきなさい」


「...わかりました」


「なに、心配することはない。お前はわしの認めた男じゃ、必ず聖剣から選ばれるわい。」










そして翌日正午、俺は謁見の間へとたどり着いていた






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