第4話 合格とはスパルタで勝ち取るもの
王城を出ると大小様々な屋敷が立ち並んでいる屋敷街があり、そこを抜けると一際大きな屋敷が目の前にあった。
アリスさんがそこの門に向かって歩いていく、どうやらこの一際大きな屋敷はアリスさんのものらしい。
門番らしき人もアリスさんの顔を見るなり門を開ける。騎士団の団長クラスになるとみんなこんな屋敷に住んでいるのだろうか?そんな考えが頭を過ぎる。その他にも庭の噴水や庭にある大きな建物などにいちいちビビりながら入り口まで進んでいくと使用人らしき人が出迎えてくれた。
「アリスシス様おかえりなさいませ。エリシア様、アレクセイ様お待ちしておりました、中に昼食の準備がしてありますのでご案内させていただきます。」
「ありがとう。ところで”ケイロス兄さん”と”アリオル”は今いるか?」
「いえ、お二人ともアリス様の後に同じように帝国との国境に騎士団を引き連れて出発なされました。お戻りはいつになるか分からないそうです。」
「そうか、では案内を頼む。」
「かしこまりました。」
案内されると大きな長方形のテーブルがあり椅子が両サイドに十個ほど並んでいた。その入り口付近にアリスさんを向かい側にしてエリシアさん、その横に俺が座る形で席についた。
もちろん俺はここに来るまでの道のりもその豪華さにビビリっていた。驚きすぎ?いやいや、これはないよいくらなんでも、王宮って言われても信じちゃうよ。
アリスさんが両肘を机に立て、手を両手で組んでその上に顎を乗せた状態で口を開いた。
「さて、ダズベスト学院について少し説明を始めよう。まず入学試験だが、入学が決まっているものも決まっていないものも全員受けることになっている。とは言っても、入学が決まっているものに対しては単なるクラス分けのテストだがな。」
「俺の入学は決まってるんですよね?」
「ああそうさ、他にも公爵家以上の子供たちと、そのほかの貴族たちで秀でた才能があるものが何人か入学する予定だよ。」
「来年は私の妹も入学が決まってるわ。剣術での入学よ。」
「そうなんですね!あの〜ちなみに似てるんですか?」
「ええ、よく似てると言われるわ!」
「おお、それはいいことですね〜、ね!アリスさん!」
「...はぁ〜、よかったなアレク。」
「はい!!」
なぜかアリスさんの顔が呆れた顔をしている気がする。.....気のせいだろう。
「本題はここからだ、お前は王からの推薦と言う形で入学することになる。どう言うことか分かるか?」
「…いや、わかりません。」
「陛下からの推薦だ、入試で下手な点数を取ってみろ?陛下の顔に泥を塗ることになってその責任は俺に来るわけだ、言いたいことはわかるな?」
「ということは後一年で合格レベルまで持っていけと?」
「半分正解、合格点でなく一番上のクラスに入らないといけないよ。でないと陛下の顔に泥を塗ることになる。」
1番上ですと?聞き間違えでなければそう言っていたはず。無茶言うよな、生まれてから今まで貴族の勉強どころかなんの勉強もした事がない。唯一習っていたのも剣と魔法だけだ、といっても基礎中の基礎でそれ以上は受ける前に…
この話はやめておこう。とりあえずアリスさんに聞いてみよう。
「ちなみに試験は何があるんですか?」
「試験はまず三日間で行われる。一日目は剣と計算、二日目が魔法と男子は実地試験で女子はない、三日目は一日使ってテーブルマナーから始まって、夜のダンスで終わりだよ。」
「実地試験ってなんですか?」
「一言で言うとサバイバルだよ、男子の多くは騎士になって戦場に行くだろう?その時に必ず食料が手に入るとは限らない。敵が奪いにきたり他にもいろいろな理由で手に入らなかったりするからなんだよ、だから試験では薬草・食用植物の採取や狩りの腕なんかが見られるんだよ。ちなみにマナーなんかは、謁見の間でやった『面をあげよ』は二回言ってからじゃないとあげちゃいけないみたいなやつを解答用紙に書いていくんだよ。」
「なるほど〜。で、俺は間に合うんですか?」
アリスさんが笑ってる。だけどどことなく嫌な雰囲気だ。
「間に合う間に合わないじゃなくて間に合わせるんだよ。」
「…..え?」
「間に合わせるためにこれからは勉強漬けになるから覚悟しといてね。」
「…..はい。」
笑顔だけど有無を言わせる気なしオーラ全開だ〜。
これからどうなるんだろうか、…..考えたくもない。
その後は学院の仕組みについて説明された、クラスは一番上がS一番下がFらしい。
1クラス20名程度で構成されており、Sクラスには総合成績上位20名と各科目の主席が入ることになる。
ならどれかの科目で主席をとりにいけばいいのかと質問をしたところ、今からでは追いつけないくらい腕の立つ人たちがいるから総合成績でSクラスを目指すしかない様だ。
「俺は剣の首席と総合での首席どっちも取って入学したよ。だからみっちりお前に教えてやるよ!」
「私は剣が次席で総合が3位での入学よ。アリスがどうしても嫌になってら代わるから言ってね。」
「アリスさんいやです。エリシアさんよろしくお願いします!!」
「いい度胸だねぇ〜、俺はもっと勉強量増やしてもいいんだけどなぁ…..」
「すみませんでした。アリスさんお願いします。』
こうして俺はアリスさんの特訓を受ける羽目になってしまった。にしてもアリスさんて何者なんだ?謁見の時は落ちこぼれみたいな言い方されてたけどめっちゃすごいじゃん。
食事を終えた後部屋を選んだ。玄関で出迎えてくれた使用人の人に案内されて部屋を見て回って、日当たりがよく窓の外からは王都の景色が一望できる部屋に決めた。窓を開けて入ってくる新鮮な澄んだ空気が新しい生活の始まりを告げる。
「ほぉ〜この部屋にしたのか」
「アリスさん!ここの部屋よくないですか?場所はいいし広いし最高です!」
「ははは、よかったよかった!とりあえず俺の部屋に行こうか、”アンジェリカ”、この部屋の荷物手配はお願いしてもいいですか?」
「お任せくださいアリス様。」
入ってきたアリスさんは赤い騎士団の制服に着替えていた。
このメイド服を着た使用人の人はヨーナさんと言うらしい。とても若くてスタイルがよく、鼻が高いのが特徴的で少しつり目、そしてダークブラウンの髪をポニーテールにしている人だ。ん〜歳は15歳くらいだろうか?
アリスの部屋は俺の部屋よりも大きく、自分の剣や鎧が飾ってあり一枚の大きな絵画が壁に掛けられていた。
絵画には女性と男性が3人ずつ写っている。
「アリスさん、この絵ってなんですか?」
「これか?ん〜話すと長くなるから無事Sクラスで合格したら話してあげるよ。それより…..はいこれ。」
アリスさんは机の引き出しから分厚い本を3つ目の前に置いてきた。
「これを全部1週間で覚えてもらうからな、その間に剣と魔法の基礎も入るから準備しとけよ〜、じゃあ早速外行くぞ〜」
「いや準備じゃなくて、覚悟しとけよの間違えでしょ…..」
俺は小声でそう呟いてスタスタとアリスさんの後ろをついて行った。
外の建物の中に入ると木剣を二つ持ったエリシアさんが赤い騎士団の制服に身を包んで待っていた。
「アレクこれをもって、早速剣の稽古を始めるわよ。」
「エ、エリシアさんが見てくれるんですか??」
やったーー!!スパルタは変わらなくてもアリスさんとエリシアさんじゃ気分が大違いだ!
「エリシア、木剣を持ってきてくれてありがとう。…..さぁやろうかアレク。」
ですよね〜〜〜
そこからがひたすら地獄だった。素振り、素振り、の繰り返し、やっと終わったと思えば屋敷の周りをひたすら走った、昨日までの短い人生でのキツさを一日で超えてしまってるかもしれないくらいえげつない。
「よし今日はここまでだ。」
「はぁはぁ…..っっっおわっったぁーーー!! もう動けない…」
「よくがんばったな、部屋までおんぶして行ってやろう。」
気付いたら日が暮れかかっていた。
アリスさんの大きな背中に乗って俺の部屋まで向かって行ったその途中。
「アリスさんそのままついでに”アリスさんの剣”持って行ってくださいよ。」
「わかった、取って帰ろう。」
「最初からちょっと疑問だったんですけど、なんでアリスさんとエリシアさんだけ制服が赤なんですか?みんな白なのに。」
「それか、騎士団は普通の団員が白、団長と副団長だけが色のついた制服を着るんだよ。」
「そーなんですね。」
そして部屋に案内された俺はそのまま晩ご飯も食べずに眠りについてしまった。
それから4ヶ月間、座学分野と実技分野を一通り習い終えた俺は、学院の合格レベルはゆうに越えるようになっていた。後7ヶ月後の試験のためにあげなければならないのは剣と魔法だけだ、それ以外はこの4ヶ月自分でも驚くほど覚えている。まぁ元の頭が空っぽだったと言われてしまえばその通りだが…..。 でも剣と魔法だけは一朝一夕じゃなかなかできないからこの4ヶ月間は基礎体力と基本の剣の動作、魔力量の増加、基本的な魔力操作を徹底して磨いてきた。あとは剣と魔法の実践だけなんだよね〜、明日の訓練が楽しみで仕方ない!
アレクが明日からの実践的な訓練に思いを馳せていると夜が老けて行った。
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