第2話 邂逅 

「...その格好からして奴隷かな、君名前は?」

赤髪の男は俺にそう声をかけてきた。

実際に着ている服は肌色だったであろう布が黒ずんでいてぼろきれのような服だ、だから奴隷だとすぐに気づいたのだろう。

「名前は...買った人はアリスと名付けました。」

「本名は知らないのかい?」

「それは...言えません。」

「ほぅ、理由を聞いてもいいかな?」

「...両親から本名は絶対に信頼できる人にしか言っちゃダメって言われてます。」



これだけは口酸っぱく言われ続けていたことだ。

理由はわからないが、普段優しかった両親がこのことだけには厳しかったのだ。



「そうかい。分かった。じゃあ...「はやく殺してください。どうせ殺されるんでしょ、そうじゃなくてもそれより辛いことをされるだけだ。だから早くその人達みたいに首を切ってください。」



どうせこの人達についていったって奴隷だ。

ただ飼い主が変わるだけで、やる事は変わらない。

ならいっそここで死んでしまった方がいい。



「君、もしかして俺達が奴隷として君を扱うと思っているのかい?だとしたら間違えだ。俺達ベルトウェルト王国は奴隷を禁止している。持っていれば死刑さ。逆にライツ帝国は奴隷がステータスになっているのだけどね。だから安心して、君は俺が保護するから。」



すると後ろの女騎士が話しかけてくる

女騎士は茶髪のショートボブで鼻筋が綺麗に通っており垂れ目が特徴的で、華奢な体に少し大きな胸で

スタイル抜群な人だった



「よろしいのですか"アリス"様?我々が代わりに保護しますが。」

「構わないよ、この子は俺が預かる。」

「承知しました。」

なるほどこいつがあのアリスか、確かに美形だ、

ババアがあそこまで執着するのも頷ける。

でも俺は騙されない



「いえ、殺してください。俺を最初に拐っていった人も同じように悪いようにはしないと言いました。

信用できません。さぁ早く。」



俺は剣を捨てて目を瞑る



「目を開けろ、これを持っておけ。王都に帰るまでお前に預けておく。」

「!!!!...ア、アリス様!し、正気ですか!?」

「無論だ。」



目を開けるとそのには二本持って剣の片方を俺に渡してきた。その意味は親から教えてもらった。

騎士の中で剣は命の次に大事なものであり、剣を誰かに渡す事は忠誠もしくは求婚を意味し、死地に行く時には互いに護身用の短剣を交換して武運を祈り合う。剣にはそう意味があることを幼い時に両親から聞いたことがある。そんな大事なものを俺に渡すと言うのだ。後ろの騎士が慌てるのもわかる。



「受け取れません。そんな大事なものは。」

「構わんこれは君への誠意だ。心を開くのは難しいかもしれないが、信じてはくれないか?」

「.....わかりました。受け取らせていただきます。あと...アレクセイ・アンドレイ、俺の名前です。」



ここまでしてくれたんだ、名前ぐらい教えてもいいだろう。騙されていたとしてもいい。

あと一回だけ人を信じてみよう。そう思って名前を打ち明けた。



「アレクでいいかな?俺の名前はアリスシス・ヴァン・ツーヴェルク。アリスと呼びなさい。

では改めて、

『ベルトウェルト王国宮廷八騎士団が一つ第八士団団長アリスシス・ヴァン・ツーヴェルク。貴殿アレクセイ・アンドレイを王国へ連れ帰り、保護する事をここに宣言する!』

アレク、一緒に来てくれますか?」



アリスはそう宣言し終えると、優しく微笑みながら俺の方を見てそう聞いてきた。ここまでしてもらったら信じるしか無くなってしまう。



「はい!お願いしますアリスさん!」

(パチパチパチパチ.....)

後ろからも優しく微笑みながら騎士団の人たちが俺に拍手を送ってくれている。すると、さっきの女騎士が話しかけてきた。



「アレク、私は副団長のエリシア・フォン・ローザンヌです。よろしくね。」

「よろしくお願いします。」



頬が赤くなるのがわかる。このタイミングでは場違いだが、本音を言うなら俺のドストライクな人だった。一挙手一投足さらには声色からクールなお姉さんだと言うことが伝わってくる。

後ろからさらに多くの馬に乗ってない兵士が歩いてきた。



「アリス団長報告です!城制圧完了しました、領主の首も取っており、こちらの被害は数人程度で収まっております!

一言でアリス様のおかげでございます!全兵士を代表して私が言わせていただきます。

私共の故郷を取り戻すことができましたこと、心より感謝申し上げます!」

「いや俺は特に目立ったことはしてないよ、作戦を立てただけで、犠牲が少なかったのは君達が頑張ったからだよ。こちらこそ、私についてきてくれてありがとう。領土を取り戻せたこと、王に代わって心より感謝する。」



どうやら後の処理は歩兵の人達に任せて、馬に乗っている人達はみんなどこかへ行くようだ。アリスさんと同じ馬に乗せられた俺は尋ねてみた。



「アリスさん、これからどこに行くんですか?」

「ああ、王都だよ。俺達は宮廷騎士団といって王都を拠点として活動しているんだ。

今回はライツ帝国に奪われた領土を取り戻すために派遣されたんだ。成功してよかったよ。」

「なるほど、なら俺はこれからどこで暮らすんですか?」

「俺の屋敷に住んでもらうことになるよ。部屋は空いてるから着いたら好きな部屋を選ぶといい。」

「わかりました!それで、あの〜.....やっぱりいいです。」

「なんだ?エリシアのことか?そんなに気に入ったのか〜」

「なっっ!なんで分かったんですか?(小声)」

「いやさっきからずっとチラチラ見てるだろ、後ろからでも顔の動きでしっかりわかるぞ?」

「絶対にこのこと言わないでくださいよ!」

「分かったよ。顔赤すぎるぞ?大丈夫か?」

「大丈夫です!!!」

「はははっ!ごめんごめん、ちょっとからかっただけだよ。」

「はぁ〜、じゃあもう聞きますけど、彼氏とかいるんですかね?」

「お? えらい開き直りだな、さっきまでの深刻そうな感じはどこにいったんだよ、エリシアに彼氏か〜、多分いないと思うぞ。あいつとは小さい時から一緒だが、そんな事聞いたこともないな。」

「そ、そうなんっすね〜 うふ、うふふ」

「にやけすぎだろ、お前から見たらだいぶ年増だぞ?大丈夫か?それに顔に騙されるな、エリシアはなぁ、中身は冷徹でおっかな...うっわ!!」



どうしたんだろう?風を切る音がしたらアリスさんの話が止まったんだけど.....

見なかったことにしよう。そうだそれが1番いい。

決してアリスさんの首元に横から剣を突きつけた笑顔のエリシアさんなんて見てない。絶対見てない!

「あら?私がなんだって?ねぇアリス、答えてくれるわよね?」

「い、いやだなぁエリシアの魅力をアレクに伝えていただけだよ。だ、だから、そ、その剣を、お、下ろしてくれないか?」

「あら、勘違いしちゃったみたいね、アレクくん噂なんてあてにならないのよ、信じれるのは自分で見聞きしたものだけよ。分かった?」

「は、は、は、はい!」




おっかねぇ!マジおっかねぇ!

アリスさん嘘言ってなかったよ。

アリスさん信じるよ!なんでかって?

そりゃ自分の目で見聞きしたからだよ!

あんなおっかないとこ見たらそりゃ信じるよ!



そして、アリスさん達と二日馬で歩いていると大きな城壁が見えてきた。

この二日間で分かったことは、アリスさんとエリシアさんはとても人気があると言うことだ。

食事の時は必ずアリスさんの隣に俺とエリシアさんが座っていたが、みんながアリスさんとエリシアさんととても楽しそうに会話する。騎士団は仲がとてもいいようだ。

俺も最初は会話をするのが久しぶりすぎてぎこちなかったが、アリスさんとエリシアさんのフォローのおかげで楽しく会話ができるようになった。

アリスさんとエリシアさんは5歳の時からの仲らしい。2人とも同じ時に剣を始めて一緒に稽古をしていたそうだ。だから人前では団長、アリス様と、エリシアさんは呼ぶけど、2人もしくは俺との3人の時だとアリスと呼び捨てにする。俺にもこんな友達が欲しいと思ってしまった。



そうこうしているうちに城門の前に来た。

これをくぐれば新しい生活がスタートする。

期待で胸を膨らませて、城門の中へ入っていった。

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