第547話 外伝7部 第三章 4 お誘い
顔合わせを無事に終えて、マリアンヌはちょっとほくほくしていた。有意義な時間だったと思う。
テレサは降嫁された姫だと聞いていたので、どんな人なのか少し心配していた。だが、意外といい人そうだった。メリーアンと気が合っていたのは意外だが、互いに楽しそうだったので問題ない。
「ご機嫌だね」
ラインハルトはそんな妻に微笑んだ。その手はしっかりとマリアンヌの腰に回っている。ぐいっと引き寄せた。
「……」
「……」
ルイスとメリーアンはそれを冷めた顔で見ている。馬車の中は狭い。ラインハルトとマリアンヌの向かい側に座っている2人の視界には、嫌でもいちゃつくバカップルの姿が目に入った。
マリアンヌはラインハルトの身体を手で押す。少し離れようとした。
昼間からいちゃつく姿を娘に見せるのはさすがに気が引ける。
だが、ラインハルトは全く気にしなかった。
夫婦の仲が良くて何が悪いというスタンスを取っている。
実際、悪いことでは無い。ただ、見せつけられる方が居たたまれない思いをするだけだ。
マリアンヌが離れようとすると逆に、ラインハルトは身体を密着させようとした。
しばらく2人は攻防を続けていたが、マリアンヌの方が折れる。
こんなことで無駄に気力を使う必要はないと開き直った。
「無事に顔合わせが終わりましたからね。結婚に関する話も纏まりましたし、これでアルス王国に帰れます」
長旅でマリアンヌは疲れている。あちこちに気を遣い、アルステリアに入ってからも国賓扱いされて無駄に気を遣っていた。正直、疲れている。
帰ってのんびり休みたかった。
「疲れているみたいだね」
ラインハルトはマリアンヌの顎を掴んで、その顔を覗き込む。
(近いっ)
マリアンヌは心の中で文句を言った。
しれっと、顎を掴んだラインハルトの手を掴んで外す。そのまま手を握った。悪戯出来ないように押さえつける。
ルイスとメリーアンはそっぽを向いていた。ラインハルトたちを見ない。その気遣いが、マリアンヌは逆に痛かった。
(疲れているのはラインハルトの様のせいもありますよ)
マリアンヌは心の中でだけ毒づく。
それを口に出せたら、どんなにいいだろう。だが夫婦だからって、何でも言っていいわけではない。言いたいことを全て口にしたら、ケンカになるのは当たり前だ。夫婦とは他人の集まりなのだから、夫婦であるからこそ、互いへの気遣いは大切だと思う。
「早く国に戻って、ゆっくりしたいですね」
にこっとマリアンヌは微笑んだ。
「そうだね」
ラインハルトは頷いた。
アルステリアの王宮に戻ると、ラインハルトはウリエルに知らせを送った。帰国の日を知らせる。
本当は明日にでも出発したいが、さすがにそれは準備が大変だとルイスに止められる。明後日、出発することにした。
明日は少しのんびりしようかとマリアンヌが部屋で考えていると、ウリエルに送った知らせの返事が来る。
何故かそれはマリアンヌ宛だった。
「わたしに?」
マリアンヌは戸惑う。
ラインハルトの機嫌が目に見えて悪くなった。
(なんでわたしに?)
マリアンヌは小さく首を傾げる。とりあえず渡された手紙を読んだ。
今夜一緒に飲みましょうという晩酌に誘われる。以前、マリアンヌが気に入ったお酒が用意してあるとも書いてあった。
「うーん」
マリアンヌは唸る。
正直、面倒くさい。だが、断れないのもわかっていた。
「どうしました?」
ラインハルトは問う。
「いいえ、何も」
マリアンヌは首を横に振る。
夫と共に伺いますと、返事をしたためた。
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