第546話 外伝7部 第三章 3 因果
メリーアンとテレサは気が合うようだった。
仲良く流行の話を始めた二人を見て、マリアンヌは口を閉ざす。
(任せてしまおう)
そう決めた。下手に口を挟まないのが得策だと、空気を読む。
2人の話を聞くともなしに聞きながら、のんびりとお茶とお菓子を楽しんだ。
お茶にしたのは正解だったらしい。わりと自由に動けるし、気を楽に持てる。食事ほどせわしなくなくて、のんびりしていた。
メリーアンも楽しそうに見える。
「姫様は母と気が合ったみたいですね」
オフィーリアがいつの間にか傍らに来ていた。声を掛けられて、マリアンヌは気づく。ちょっとのほほんとしすぎたようだ。
「そうね」
頷く。
「思った以上にすんなりと話が纏まって良かったわ」
マリアンヌはちらりとオフィーリアを見た。根回しはしてくれたのだろうと思う。
オフィーリアは小さく笑った。
「ああいうドレスの流行や宝飾品の話を楽しそうに出来る娘に育てば良かったんですけど……」
微妙な顔をする。
「わたしは母の期待通りには育ちませんでしたから」
肩を竦めた。親子の間は少し殺伐としているのかもしれない。
マリアンヌはふふっと笑った。
「子供は親の期待通りになんて育たないものよ」
それが普通だと、オフィーリアを慰めた。
マリアンヌだって、メリーアンが強かな娘に育つことは望まなかった。
おっとりと誰かに守られて、穏やかに幸せに暮らせればそれでいいと願ったのに、どうもそうはならないような気がする。こんなはずではなかった。
「親が何を願おうと、結局子供は自分の生きたいように生きるのでしょうね」
それでいいのかもしれないと達観していた。
子供には子供の人生かあるのだから、好きなように生きていい。例えそれで後悔することがあったとしても、自分で選んだ人生だ。後悔もまた人生の一部だろう。そもそも、後悔しない人生なんてあるのだろうか? どんな人生を歩んでも、人は何かしら後悔する。人間というのは欲深い生き物だ。何かを手に入れても、もっととさらに求める。
「子を持って知る親のなんとかというけれど、本当にそうね。わたしは自分がどれだけ親に心労をかけてきたのか、今頃、身に染みて感じているわ」
マリアンヌはため息を吐いた。
「メリーアン様はまだ9歳なのに、しっかりしていて社交も出来ています。すばらしい姫様だと思いますが……」
マリアンヌが何を言いたいのか、オフィーリアにはわからなかった。困惑する。
「しっかりしすぎているのよ」
マリアンヌは苦笑した。
「もっと何も考えず、ただ楽しく生きる人生もありだと思うの。あの子は生まれながらのお姫様なのだから。そういう穏やかで優しい人生を選んで欲しかったのに、どうもそうはならないみたいで……」
もう一度、大きなため息を吐く。
「それは……」
オフィーリアは何かを言いかけて、止めた。気まずそうに口ごもる。
「何?」
マリアンヌは続きを促した。
オフィーリアは困る。
「マリアンヌ様に似たのかと……」
言い難そうに口にした。
「……」
マリアンヌはとても微妙な顔をする。
「すみません。失礼しました」
オフィーリアは失言を詫びた。
「いいえ、いいのよ」
マリアンヌは首を横に振る。
「みんなに同じことを言われるから」
口を尖らせた。
「でも、わたしは一人で静かに自給自足のスローライフを送る予定だったのにね。田舎でのんびりと暮らしたかったわ。今の地位や状況は望んだわけではないのよ……」
マリアンヌは今でも自分はその他大勢だと思っている。人の人生まで背負えるほど人物ではないつもりだ。なのに、のしかかってくるモノが重すぎる。
だがその話をしても、たいていは本気にしてくれない。またまた冗談を……と一笑されるのが常だ。自分はどれだけしたたかで計算高い女だと思われているのか、考えるのが怖い。
「そうなんですか?」
オフィーリアは驚いた顔をした。
信じてくれるらしい。
(仲良くやっていけるかも)
それだけで、マリアンヌはそう思った。単純だが、自分の直感を信じる。
アルステリアまで足を運んだかいはあったと思った。
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