第541話 外伝7部 第二章 3 確信犯




 王宮に着くと出迎えてくれたのは外務大臣だった。他にも重臣らしい貴族が幾人かいる。




(妥当な扱いかも知れないけれど、大袈裟ね)




 マリアンヌは心の中でぼやく。


 オフィーリアの実家との顔合わせのはずが、どんどんことが大きくなっている気がした。




 そんな外務大臣他との挨拶はラインハルトに丸投げして、マリアンヌは口を噤んでいた。隣にいるメリーアンを見る。


 初めての場所にさすがのメリーアンも少し緊張した顔をしていた。


 そこにオフィーリアがやってくる。




「マリアンヌ様」




 声をかけた。




「ようこそおいでくださいました。遠くまで、わざわざすみません」




 挨拶する。


 マリアンヌは苦笑した。




「いいえ、こちらこそ。出迎えありがとう。結婚の挨拶に来たのに、肝心の花婿が不在でごめんなさい。夫と息子を一緒に遠出させるのはさすがに……ね」




 アドリアンの不在を詫びる。


 結婚の顔合わせに花婿のアドリアンがいないのは可笑しな話だ。


 だがそれには仕方のない事情があった。リスクを分散する意味で、皇太子とその嫡男を一緒に遠出させることは王家としては出来ない。時間差で出発というのも考えたが、飛行機でひとっ飛びとはわけが違う。旅程を考えると、簡単な話しではなかった。断念する。


 そしてどちらか一人だけと考えた時、今回は両家の親が顔を合わせるという趣旨を尊重することにした。花婿であるアドリアンは留守番に決まる。


 アドリアン本人はケロッとしていた。オフィーリアも別に自分に会いたいと思っていないから大丈夫だと簡単に言う。


 それはそれでどうなんだと思わないわけではないが、政略結婚なんてこんなものなのかもしけない。


 駄々を捏ねられたところでどうにかなる問題でもないので、あっさりしているのはありがたいと思った。




「いいえ。わかっていますから」




 強がりではなく、全く気にしない様子でオフィーリアは返事をする。こちらもさばさばしていた。




(ある意味、似たもの夫婦かも)




 マリアンヌはそんなことを思う。


 小さく笑うと、オフィーリアに不思議そうな顔をされた。












 ラインハルト一行はそのまま王の間に案内された。


 ウリエルがそこで待っている。




「ようこそ、我がアルステリアへ」




 にこやかに声を掛けられた。




(案外、変わらない)




 十年ぶりくらいの再会だが、ウリエルはさほど変わっていない気がした。


 ラインハルトが挨拶するのを隣で聞きながら、マリアンヌはそんなことを考える。


 自分は挨拶する必要がないだろうと、気楽に構えていた。


 だが、ウリエルの眼差しはマリアンヌに向けられる。




(えっ? 何?)




 マリアンヌはぎくっとした。




「お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」




 ウリエルはきらきら笑顔で挨拶してくる。


 そうなるとマリアンヌも黙ってやり過ごすことは出来なくなった。




「国王陛下もご健勝そうでなによりです」




 当たり障りのない返事を返す。




「おかげさまで」




 ウリエルはにっこりと微笑んだ。




「また、楽しくお酒を飲めることを心待ちにしております」




 そう続ける。


 ラインハルトが小さく目を見開いて、こちらを見た。


 どういうことだ?――と、その目は問いかけている。




(後で説明します)




 そう目で訴えたが、ラインハルトに伝わったかどうかはわからなかった。




 そんなラインハルトとマリアンヌのやり取りをウリエルは楽しそうに見ている。


 確信犯だった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る