第538話 外伝7部 第一章 7 それぞれの道




 ランスローで過ごす時間はまったりしていた。


 夕方、マリアンヌは目を覚ます。後ろからラインハルトに抱きしめられていて、身動きしにくい状態だった。


 ぐっすり寝たので疲れは取れているが、とっくにお茶の時間は過ぎているだろう。


 時計を見て、時間を確認した。


 疲れているのを気遣い、寝かせてくれたのだろうと察する。




「ラインハルト様」




 がっつりと腰に回されている手をトントンとマリアンヌは叩いた。




「起きてください」




 声をかける。




「ん……」




 背後で身じろぐ気配を感じた。


 マリアンヌはラインハルトの手を取って、自分の身体から外す。ゆっくりと身を起こした。




「もう夕方ですよ」




 ラインハルトを見る。


 ラインハルトは眠そうな顔をしていた。




(なんか可愛い)




 マリアンヌはくすりと笑う。顔を寄せ、チュッと触れるだけのキスを頬に落とした。




「どうせなら、口がいい」




 ラインハルトはそんなことを言う。




「ははは」




 マリアンヌは笑って、聞き流した。ベッドを降りる。身なりを軽く整えた。




「みんなが待っているでしょうから、行きましょう」




 ラインハルトを促す。




「……わかった」




 ラインハルトはようやく身を起こした。マリアンヌと2人きりで過ごす時間が終わること残念な顔をする。


 そんな夫をマリアンヌは苦く笑った。












 夕食前、居間にはみんな集まっていた。


 そこにはマルクスやアーク、リリルの姿もある。家族の食事に呼ばれたようだ。それは決して珍しいことではなく、週に何回か、みんなで集まって夕食を取るらしい。


 みんなが仲良くしていることを知って、マリアンヌはほっとした。


 ここにはアルフレットやルークもいるが、ユーリの姿だけがない。


 ユーリは一人、王都に戻っていた。


 大公家を継ぐのはルークではなく、ユーリに決まる。ルークはランスローに残ることを希望した。シエルの養子になるのはルークの予定だ。




「元気そうだね」




 マルクスが穏やかな笑みを浮かべて弟を見る。




「兄さんこそ」




 ラインハルトは微笑んだ。この2人はわりと仲がいい。




 マルクスはリリルが成人するとさっさと家督を譲って引退した。王族としての公務を息子に継がせる。もっとも、生活は以前とはほぼ変わらなかった。好きな研究は続けているし、農作物を楽しそうに育てている。マリアンヌが夢見た自給自足の生活をほぼ実現していた。ただ、公務のために王都に戻ることがなくなる。ラインハルトと顔を合わせる機会はぐっと減った。今回は久々の再会になる。


 アルフレットはマルクスの引退と共に、後を継いだリリルの補佐に就任した。引き続きランスローに滞在し、リリルを助けている。


 リリルは成人後も王都に戻らず、ランスローで生活することを選んだ。王都を離れていてもこなせる公務だけ残して、それ以外のマルクスが担当していた公務はアドリアンやオーレリアン、エイドリアンなどが引き継ぐ。それはフェンディも同様で、一部の公務を除いてマリアンヌの息子達が仕事を引き継いでいた。


 ルークがランスローに残ることを決めたのはリリルのためらしい。2人は親友で、とても仲が良い。そんな2人の気持ちを慮って、ユーリは自分が大公家を継ぐことにしたようだ。


 成人する少し前からユーリは王都に戻っている。


 小さかった子供達が成長し、自分の進路を自分で決めたことを知り、マリアンヌは感慨深い気持ちになった。




「みんないつの間にか、大人になっているのね」




 独り言のように呟く。




「案外、姉さんが一番成長していないのかもね」




 シエルがからかうように笑った。




「意地悪ね」




 マリアンヌは拗ねる。だが、本気で怒ってはいなかった。兄弟でじゃれている。


 それを少し面白くない顔でラインハルトは見ていた。




「大人気ない」




 メリーアンはぼそっと呟く。




「その通りですが、それは言わないであげてください」




 ルイスは頼んだ。




「ルイスは父様に甘すぎると思う」




 メリーアンは怒るようにルイスを睨んだ。










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