第300話 閑話:不満(後)




 ラインハルトはいつものように仕事を終えて帰宅した。




「お帰りなさいませ」




 マリアンヌが笑顔で出迎えてくれる。


 もちろん、子供たちも一緒だ。


 アントンもいる。




「おかえりなさーい」




 子供たちは突進した。


 ラインハルトに抱きつく。


 普段はそんなことをしないオーレリアンまで控え目に抱きついた。




「?」




 ラインハルトは小さく首を傾げる。




「熱烈な歓迎だね」




 笑いながら、末っ子を抱き上げた。




「かあさまがとうさまにぎゅっとしなさいって」




 ぎゅっとしがみつきながら末っ子は説明してくれる。




「マリアンヌ?」




 ラインハルトは妻を見た。




「ラインハルト様は寂しいようなので、暑苦しいほど愛してあげようと思いまして」




 マリアンヌは笑う。


 意味深な顔をした。




「……」




 ラインハルトは眉をしかめる。




「ルイスか?」




 尋ねた。




「……」




 マリアンヌは答えない。




「お食事にしましょう」




 アントンにそう言った。


 話題を変える。




「はい」




 アントンは返事をした。












 その後もマリアンヌの暑苦しい家族愛攻撃は続いた。


 子供たちはラインハルトにずっとくっついている。


 いつもはクールなオーレリアンが戸惑いながらもそれに参加しているのが可愛いかった。




「アドリアンはともかく、オーレリアンがこういうのに乗るタイプだとは知らなかった」




 ラインハルトは微笑む。


 オーレリアンは照れた顔をした。




「だって、やらなかったら母様が煩い」




 言い訳する。


 マリアンヌのせいにしているが、嫌ではないのだろう。


 照れくさいだけなのがわかった。


 そんなオーレリアンの性格を知っているからなのか、マリアンヌは意識的にオーレリアンにはスキンシップを取っているように見える。


 手を繋いだり抱きしめたりする姿をよく見かけた。




「オーレリアンはマリアンヌの子供として生まれてきて良かったね」




 ラインハルトはしみじみと言う。




「……」




 オーレリアンは黙って顔を赤くした。


 本人もそう思っているらしい。


 照れくさそうなのがなんとも可愛いかった。


 ラインハルトはぎゅっと抱きしめたくなる。




「私もオーレリアンを愛しているよ」




 そんなことを囁いた。












 マリアンヌは子供たちを寝かしつけるために、子供部屋に連れて行った。


 ラインハルトは夫婦の寝室で、マリアンヌが戻ってくるのを待つ。


 一人でワインを味わった。


 そこにマリアンヌが来る。


 2人の時間がようやく訪れた。




「子供たちの父様大好き攻撃、いかがでした?」




 マリアンヌはにやにやしながら聞く。


 カウチに座るラインハルトの隣に腰掛けた。




「悪くない」




 ラインハルトは答える。


 少し高めの体温がなんともくすぐったくて愛しく思った。


 不思議な感じがする。


 子供たちにあんなにくっつかれたのは初めてだ。


 いつもは少し距離がある。


 子供たちが纏わりつくのは母親であるマリアンヌにだ。




「子供たちも楽しそうでしたよ。父様のこと、大好きだから」




 マリアンヌは微笑む。




「母様に言われたからやっていただけだろう」




 ラインハルトは苦笑した。




「言われても、子供は嫌なことはしません」




 マリアンヌは首を横に振る。




「子供たちは父様が大好きなのですよ」




 囁いた。


 ラインハルトは照れる。


 そんなラインハルトにマリアンヌは微笑んだ。




「もちろん、わたしも」




 抱きつく。




「今日はずいぶんとサービスがいいんだな」




 ラインハルトは笑った。




「たまには誘われたいのでしょう?」




 マリアンヌはくすくすと笑う。




「やっぱり、ルイスか」




 ラインハルトはやれやれという顔をした。




「主思いのいい側近ではないですか」




 マリアンヌはにんまりと口の端を上げる。




「……そうだな」




 ラインハルトは頷いた。


 マリアンヌにキスをする。


 マリアンヌはその背中に手を回した。












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