第299話 閑話:不満(中)




 有能なルイスはマリアンヌに会いに行った。


 ラインハルトを宥めるより、マリアンヌと話をつける方が早いと思う。




「ご機嫌いかがですか? マリアンヌ様」




 離宮を訪れ、マリアンヌと面会した。




「さっきまでは良かったのですが、今は嫌な予感しかしていません。何かあったのですか?」




 マリアンヌは問う。


 不安な顔をした。


 結婚して何年も経つがマリアンヌはあまり変わらない。


 王族になっても派手になることもなく、偉ぶることもなかった。


 良くも悪くもそのままだ。


 見た目的にもたいして変わっていない。


 ラインハルトは19歳から20代後半になり、青年から大人の男へと大きく変化した。


 それに比べればほとんど年も取っていないように見える。




「心配するようなことは何もありません。ただ、私が面倒になったので直談判しに来ただけです」




 ルイスは答えた。




「わたしにですか?」




 マリアンヌは首を傾げる。


 心当たりはないようだ。




「ラインハルト様が構ってもらえないと拗ねています」




 ルイスはため息混じりに伝えた。




「え?」




 マリアンヌは眉をしかめる。




「お子様が3人もいて、お忙しいのはわかります。ですが、いろいろと面倒くさいのでラインハルト様のことも構ってやってください。いつも自分から行くのではなく、たまには誘われてみたいそうです」




 ルイスは淡々と用件を口にした。




「~~~」




 マリアンヌは渋い顔をする。




「ラインハルト様はそんなことまでルイスに話すの?」




 嫌そうに顔を歪めた。




「私以外に話せる相手もいないでしょう?」




 ルイスはラインハルトをフォローする。




「それもそうね」




 マリアンヌは納得した。




「わたし、ラインハルト様とは仲良くやっているつもりなのだけど」




 ため息を吐く。




「個人的には、私もそう思っています」




 ルイスは同意した。




「でも、それではご不満のようです」




 困った顔をする。




「王子様は我侭ね」




 マリアンヌは苦く笑った。




「ルイスが甘やかしすぎなのではなくて?」




 責めるようにルイスを見る。




「今日だって、別にラインハルトに頼まれて来たわけではないのでしょう?」




 尋ねた。




「ええ。ラインハルト様は知りません」




 ルイスは頷く。




「でもこれはラインハルト様のためというより、私のためです。執務中、主の性生活について相談されるのは面倒なので」




 大きなため息を吐いた。




「それは……」




 マリアンヌは顔を引きつらせる。




「迷惑をかけてごめんなさい」




 謝った。


 申し訳なさそうにする。




「マリアンヌ様が悪いわけではないことはわかっています」




 ルイスは首を横に振った。




「ただ、ああ見えて意外とラインハルト様は寂しがり屋なので、気を配って差し上げてください」




 頼む。




「善処します」




 マリアンヌは答えた。


 困った顔で笑う。


 ルイスも苦く笑った。




「それでは、今日、私がここに来たことは内密に」




 内緒にしてくれと頼んで、帰ろうとする。




「もう帰るの? お茶くらい飲んでいけばいいのに」




 マリアンヌは引き止めた。




「いえ、仕事が残っていますので」




 ルイスは断る。


 深く一礼して、立ち去った。








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