第298話 閑話:不満(前)




 ラインハルトは恋した相手を妻にした。


 政略結婚が当たり前の王族で、好きな相手と結ばれることは珍しい。


 自分が幸運であることをラインハルトは自覚していた。


 子供は3人も生まれる。


 双子の男の子と、その三つ下に男の子がもう一人。


 跡を継ぐ相手には困らなくなった。


 ラインハルトは皇太子になる。


 王位継承は確実となった。


 ラインハルトは別に国王になりたいわけではなかったが、自分が継ぐのが最良の選択だと思っている。


 傍から見れば順調すぎるほどラインハルトの人生は順風満帆だ。


 だが、ラインハルトにも不満がある。


 マリアンヌは子供たちにかかりきりで、あまり構ってくれない。




「最近、マリアンヌが冷たい」




 ルイスにぼやいた。




「そうですか。それは大変ですね」




 ルイスは取り合わずに流す。


 正直、面倒臭かった。


 相手にしていられるかと思う。




「ルイスは冷たいな」




 そんなルイスの態度に、ラインハルトは不満を顕にした。




「少しは心配したり、親身になって相談したり、主を思う態度は見せることは出来ないのか?」




 八つ当たりの矛先を向ける。




(本当に面倒くさい)




 ルイスは心の中で愚痴った。


 だが、表情はあくまで穏やかにラインハルトを見る。




「今は執務中でとても忙しいのですが、私は主の性生活の相談にも乗らなければならないのでしょうか?」




 笑顔を崩さぬまま、冷たく聞いた。


 それが余計に怖い。




「それは……」




 ラインハルトは言葉に詰まった。


 自分でも八つ当たりしている自覚はある。


 誰かに愚痴って、慰めて欲しかっただけだ。


 その相手はルイスしか思い浮かばない。


 何でも話せる相手は多くなかった。


 ルイスは気まずい顔をしたラインハルトを見て、やれやれと息を吐く。


 自分に甘えているのはわかっていた。




「そんなに聞いて欲しいなら、聞いてあげますよ。夜の営みは週何回ですか?」




 淡々と問う。




「決まってはいないが、私が誘えば応えてくれる。週に4~5日という感じだと思う」




 ラインハルトは言いにくそうな顔をしつつも答えた。


 まさか答えが返ってくるなんて思わなかったので、ルイスは驚いた。


 嫌味にもちゃんと答えるあたりが、育ちのいい王子様という感じがする。


 ルイスは苦笑した。




「週に4日も応えてくれるなら、十分に優しいでしょう。冷たくなんてありませんよ」




 マリアンヌをフォローする。


 それで冷たいと言われたら、マリアンヌが気の毒だ。




「しかし、誘うのはいつも私の方だ。たまにはマリアンヌから誘ってくれてもいいと思う」




 ラインハルトは子供みたいなことを言う。


 拗ねた顔をした。


 ルイスは呆れる。




「週に5日も誘ってくる相手に、いつ、自分から誘う隙があるのですか? 誘って欲しいなら、一週間くらい何もせずに我慢しなさい。そうすれば、マリアンヌ様から誘ってくれるかもしれませんよ」




 そんなことを言った。




「一週間もマリアンヌに触れられないなんて、寂しいだろう?」




 ラインハルトは口を尖らす。




「別に触るなとは言っていません。抱きしめて寝てもいいですよ。それ以上、しなければいいだけです」




 ルイスは答えた。


 そんなことをアドバイスしなければならない自分が痛い。


 夫婦の問題は夫婦で解決して欲しいと心から思った。


 尤も、週に5日も仲良くやっている夫婦に問題があるとは思えない。




「息子たちが生まれてから、マリアンヌは子供たちにかかりきりだ。私がマリアンヌを独占できるのなんてベッドの中くらいなのに、そこでも我慢しろと言うのか?」




 ラインハルトは怒る。




(本当に面倒くさいな)




 ルイスは心の中でぼやいた。




「そういうことはマリアンヌ様と直接、話してください。主の性生活の管理は私の業務に入っていません」




 怒り返す。




「……」




 尤もな言い分に、ラインハルトは黙った。










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