第301話 閑話:性格
ユーリはランスローでのびのび育った。
王都にある大公家には年に一度くらいしか戻らない。
馬車で三日の移動はなかなか大変だ。
正直、面倒くさく思う。
ランスローでのんびりする方が性に合っていた。
兄のルークもリルルもいるので、寂しくはない。
兄のルークはリルルと親友と呼べる仲になっていた。
年が近い2人にはユーリが立ち入れない何かがある。
時々、2人だけで狩りに出かけたりしていた。
年下のユーリは置いていかれることが多い。
それを不満に思ってむくれていると、大抵はシエルがやってきて慰めてくれた。
「友達同士で遊びに行きたい時だってあるんだよ」
置いて行ったルークを許してやれと言う。
「弟は邪魔ってこと?」
ユーリは拗ねた。
「そうじゃない」
シエルは笑う。
「ユーリがいたら、ルークはユーリを守ることが第一になるだろ? どうしたって保護者になるんだ。それがたまに重いんじゃないかな」
ルークをフォローした。
「結局、邪魔ってことじゃん」
ユーリは口を尖らす。
「それだけ、ユーリが大切ってことだよ」
シエルはよしよしとユーリの頭を撫でた。
「もう守ってもらわないといけないような子供ではないのに」
ユーリは不満を口にする。
「兄にとって弟はいつまで経っても子供だよ」
シエルは楽しげに笑った。
「姉さんだって未だに私を子供扱いする」
少し困った顔をする。
「あー……」
ユーリはなんとも微妙な反応をした。
マリアンヌは相変わらずだ。
シエルを溺愛している。
1年に一度は実家に帰る宣言をしたマリアンヌは本当に年に一度、旅行という名目でランスローに子供を連れて里帰りしていた。
その行動力には普通に驚く。
王宮に入っても王族のしきたりに雁字搦めにされることもないようだ。
妃になっても母になってもマリアンヌは基本的に変わらない。
シエルの世話をあれこれ焼きたがった。
そんな母親を子供たちは不思議そうに見ている。
「でもシエルはそれでいいと思っているんでしょ?」
ユーリは問うた。
「まあね」
シエルは頷く。
「姉さんに心配されるのは悪い気分ではない」
嬉しそうな顔をした。
「……」
そんなシエルをユーリは不思議そうに見る。
「シエルって不思議。モテるのに誰とも付き合わないし、父様とカモフラージュの関係を続けたままだし」
首を傾げた。
シエルと父から付き合っているふりをすると告げられたのはランスローで暮らすようになってからさほど経たない頃だ。
子供だったユーリにはよくわからなかったが、大人の事情がいろいろあるらしい。
シエルに女性が近づくのを父は警戒していた。
側にいて追い払えば、当然、2人に何か関係があるのではないかと周りは勘ぐる。
それを否定するのは面倒なので、逆に利用すると説明された。
そのことで誰かに何か言われるかもしれないし、噂が耳に入るかもしれないから、最初に説明しておくと言われる。
実際、周囲は2人に関係があると思っているようだ。
シエルも父も周りの目がある時ほど、仲よく寄り添っている。
わざとそう誤解させているのは見え見えだ。
「巻き込んですまないな」
シエルは謝る。
「いや、別に」
ユーリは首を横に振った。
父は父で案外楽しそうにその役を演じている。
シエルのことを可愛く思っているようだ。
実の弟より弟っぽいのかもしれない。
「父様が再婚する心配がないから、それはそれでいい」
ユーリは苦く笑った。
「アルフレットが再婚するのは嫌なの?」
シエルは尋ねる。
「嫌だよ」
ユーリは首を縦に振った。
「マリアンヌとシエルが家に来る前、父様は再婚しようといろんな女性と会っていた。それがとてもとても嫌だった」
眉をしかめる。
その時の嫌な気持ちを思い出した。
「そうか。じゃあ、ユーリにとっては私とアルフレットの噂は都合が良かったんだね」
シエルはほっとする。
迷惑をかけていると思っていたので、気が楽になった。
「うん。もういっそ、シエルが父様と結婚してくれたらいいのにと思うよ」
ユーリは満更冗談でもなくそんなことを言う。
そうすれば、父の再婚を心配しなくてすむので楽だ。
「はははっ」
シエルは笑う。
もちろん、男同士では結婚は出来ない。
ユーリもそれはわかっていた。
「ユーリは意外と性格が姉さんに似ているよね」
シエルはそんなことを言う。
「え?」
ユーリは驚いた。
「どこが?」
首を傾げる。
あんなに変わっているつもりはなかった。
「常識をちゃんと持っている姉さんって感じ」
シエルは説明する。
「それ、誉め言葉に聞こえない」
ユーリは苦く笑った。
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