第296話 エピローグ? 主役登場(前)
月日は流れ、双子は7歳になった。
その間、当たり前だがいろんな事がある。
全てが順風満帆とはいかなかったし、平穏無事でもなかった。
むしろ、一つ問題が解決すれば別の問題が持ち上がる。
平穏無事な人生なんて、どこにもないのではと思った。
双子の王子が誕生したことにより、ラインハルトは皇太子の地位に就いた。
そんな地位があることも知らなかったわたしは驚く。
長い間、皇太子は不在だった。
現国王は皇太子にならずに直ぐに王位を継ぐ。
先王は身体が弱く、王位継承は急を要した。
現国王は健康に問題がないので、しばらくラインハルトが王位を継ぐことはないだろう。
それを見越しての皇太子だ。
ラインハルトの王位継承が確定する。
長い間、水面下で繰り広げられていた派閥争いに終止符が打たれた。
わたしは皇太子妃となる。
責任がさらに重くなった。
次期王が確定し、マルクスやフェンディは楽になったらしい。
二人とも楽しく暮らしていた。
王宮と地方を適度に行ったり来たりしている。
マルクスはアークと上手くやっているようだ。
ランスローでの暮らしの方が性に合っているらしく、王宮に戻っても用事を終えると直ぐにランスローに帰ってしまう。
一緒に連れて行ったリルルはランスローの方が暮らしやすいようでまったく王宮に戻ってこなかった。
それはアルフレットの子供たちも同じらしい。
マルクスと一緒にアルフレットが王都に戻っても、ついてきてくれないとアルフレットが嘆いていた。
一年に一度、無理矢理連れ帰ってくるらしい。
そんなアルフレットはわたしの願いを聞き入れ、シエルを守ってくれていた。
シエルや母に似たアドリアンが生まれた事で、転生会は今のところ静かだ。
何の動きも見せない。
シエルを王位に就けるより、アドリアンを王にする方が簡単で真っ当だと誰でも思うのだろう。
転生会はシエルからアドリアンに矛先を変えたようだ。
本物の賢王がオーレリアンとして転生しているのに、その兄を擁立するなんて皮肉な話だとわたしは思う。
シエルにはもう何もないだろう。
だが、わたしは小心者なので用心は怠らなかった。
アルフレットも引き続き、シエルを保護してくれている。
フェンディの方は米の生産増加、流通増加を頑張っていた。
この数年で、米料理は一定の知名度を得たと思う。
それに関してはわたしも頑張った。
貴族の間ではたまに食べられるようになる。
だが一般に普及するのはまだまだ先のようだ。
流通手段が限られているから、ある程度は仕方ない。
時間がかかることはわたしもフェンディも覚悟していた。
簡単にできることなら、とうの昔に誰かが成し遂げていただろう。
それが出来ないから、今まで手つかずで問題が残されていたのだ。
気長に頑張る事にする。
仕事面はそんな感じでぼちぼちだが、プライベートは順調そうだ。
ラインハルトが皇太子になったのを機に、ミカエルとの関係をフェンディはオープンにする。
隠さなくなった。
仲睦まじい姿を普通に見かけるようになる。
わたしは内心、ドキドキした。
2人の妃やその子供たちの心情を慮る。
だが、そこは貴族だ。
割り切っているらしい。
もともと、妃は3人まで持てた。
3人目の妃をフェンディが娶ったと考えれば、流す事も出来るらしい。
あまりに堂々としているので、噂好きの王宮の人々も噂しにくいようだ。
フェンディのことはあまり話題に出ない。
対処に困っているようにも感じた。
わたしとラインハルトは変わらず仲良くしている。
双子が生まれて3年後、わたしはもう一人男の子を産んだ。
これでラインハルトの跡を継ぐ可能性を持つ王子が3人になる。
アドリアンとオーレリアンはお兄ちゃんになった。
前世でいえば小学生になる年になり、オーレリアンはもちろん、アドリアンもしっかりしてくる。
わたしとオーレリアンに囲まれて育ったせいか、アドリアンは普通の子より大人びた子供に育っていた。
母としては頼もしく思うこともある。
「ねえ、母様」
お茶の時間、末っ子を抱っこしてあやしていたわたしにアドリアンが寄ってきた。
腰掛けていたソファの隣に座る。
アドリアンは甘えっ子だ。
昔から、わたしにくっついてくることが多い。
そんな息子がわたしは手放しで可愛いかった。
「なあに?」
優しく尋ねる。
「転生って、死んでも生まれ変わってまた生きるって意味だよね?」
アドリアンはにこにこと笑いながら聞いてきた。
「え?」
わたしは固まる。
思いもしない質問に驚いた。
別の椅子に腰掛けていたオーレリアンも固まっている。
アドリアンとオーレリアンは仲良しだ。
成長するにつれ、2人は二人きりで過ごす時間も増える。
母親のわたしには内緒の話も2人にはあるようだ。
たまに2人でこそこそしている。
だが、アドリアンがこんなことを言い出すなんて、オーレリアンも予想していなかったらしい。
「突然、どうしたの?」
わたしは心配になった。
「誰かに何か言われたの?」
尋ねる。
アドリアンに近づく人間にわたしは注意を払っていた。
だがわたしも四六時中、アドリアンの側にいられる訳ではない。
わたしが気づかぬうちに誰かが接触をはかった可能性もなくはなかった。
「いいえ」
アドリアンは首を横に振る。
その顔はますます、母やシエルに似てきた。
わたしの中にも母の血は流れていたのだと、感慨深い気持ちになる。
「母様とオーレリアンが話していたでしょ?」
アドリアンは答えた。
にこっと笑う。
「いつかしら?」
わたしは首を傾げた。
アドリアンがちゃんとした言葉をしゃべれるようになってから、わたしとオーレリアンはアドリアンの前でその手の話題を口にしていない。
言葉を覚えて、意味もわからず使われたら困るからだ。
「ずいぶん昔。ベッドで、横になったまま2人で話していたよ」
アドリアンの言葉に、わたしは目を見開く。
心当たりは一つしか無かった。
オーレリアンに賢王の生まれ変わりであることを打ち明けられたある夜だ。
だが、まさかと思う。
「あの日のことを覚えているの?」
わたしは困惑した。
あの時、アドリアンは一歳になったばかりだ。
満足に言葉を話せないのに、わたしたちの会話を理解できたはずがない。
「覚えているよ」
アドリアンは微笑んだ。
「あの時は意味がよくわからなかったけど、今なら意味もだいたいわかる。オーレリアンは賢王の生まれ変わりなのでしょう? 賢王って、この前習ったあの王様のことだよね?」
にこやかに尋ねる。
先日、アドリアンとオーレリアンは王家の歴史で賢王について学んだばかりだ。
わたしも一緒にその授業を聞いていたのでよく覚えている。
あの時はオーレリアンの事ばかり気になって見ていたが、アドリアンもいつになくそわそわしていた。
そのことをわたしはもっと気に留めるべきだったらしい。
「アドリアン。その話は後で母様とオーレリアンと3人でお話ししましょう」
わたしはにこやかに微笑む。
「?」
アドリアンは不思議な顔をした。
わたしがそんなことを言う意味がわからないらしい。
「はい」
それでも、とりあえず頷いた。
わたしはほっとする。
近くにいるメアリを見た。
目が合うと、メアリは静かに頷く。
「わたしは何も聞いていません」
そう言った。
美少女から美人に成長してもメアリは有能だ。
わたしの考えを察してくれる。
わたしは満足な顔をした。
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